第23話 触れずに去る
共同管理の、再交渉は、静かに、まとまった。
契約は、更新された。ただし、半年前とは、違った。費用の配分も、裁定の分担も、両方の街の、現場どうしが、直に、決められる形に、なった。
リュネアの、ミーナと。グレイシャの、ガロが。書面を、交わした。
エリアナも、セレナも、そこに、判を、押さなかった。
押す必要が、なかった。
「これで、いいのか」
ガイウスが、隣で、聞く。
「ええ。……私たちは、もう、要りません」
荷を、まとめた。来た時と、同じ、少ない荷物だ。
発つ前に、セレナが、見送りに、来た。
「結局、あなたは」
セレナは、少し、困ったように、笑った。
「この街で、何も、してくださらなかったのね」
「ええ」
エリアナは、否定しなかった。
「指示も、くださらない。答えも、教えてくださらない。ただ、記録を、置いて。……あとは、見ているだけ」
「意地悪だと、思いましたか」
「思いました」セレナは、頷いた。「最初は。……今は、違います」
彼女は、掲示板の方を、見た。
「もし、あなたが、教えてくれていたら。私は、あなたに、寄りかかった。セレナから、エリアナに、寄りかかる先を、変えただけ。……あなたは、それを、させなかった」
「はい」
「答えを、渡さないことで。私に、自分の足を、返してくれた」
エリアナは、静かに、微笑んだ。
「あなたが、自分で、たどり着いたんです。私は、何も、していません」
「ええ。……あなたは、何も、しなかった。それが、いちばん、難しいことだと、今は、分かります」
二人は、しばらく、向かい合っていた。
華のある女と、華のない女。選ばれかけた女と、外された女。
同じ言葉に、傷つき。同じ問いに、たどり着き。
今、まったく、同じ場所に、立っていた。
どちらも、真ん中を、空けた人間として。
「またいつか」セレナが、言った。「今度は、街のことでは、なく。ただの、お茶でも」
「ええ。……喜んで」
エリアナは、馬車に、乗った。
グレイシャの、城門が、遠ざかっていく。
振り返っても。誰も、彼女を、見送って、いなかった。皆、それぞれの、仕事に、戻っていた。市場が、開き、荷が、動き、詰所で、誰かが、何かを、決めている。
彼女が、いなくても。回る街が。また、一つ、増えた。
それは、彼女が、望んだこと、そのものだった。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
何も、直さず、何も、教えず。それでも、街を、立たせて、帰る。
「あなたは、何も、しなかった」――それが、最大の賛辞になりました。
外から来た人間が、直してみせないこと。教える中心にも、ならないこと。
エリアナは、最後まで、それを、貫きました。二重の「降りる」の、完成です。
次回、いよいよ、最終話。二人は、リュネアへ帰ります。
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