第22話 灯り
都市同盟から、視察官が、来たのは、その、数日後だった。
レティシア・クロウ。
かつて、リュネアを、査定した、あの視察官だった。エリアナのことを、「危険な調整官」と、評した人。
「またお会いするとは」
レティシアは、エリアナを見て、薄く、笑った。
「今度は、あなたの街では、ない。……のに、あなたが、いる」
「行きがかりです」
「そういうことに、しておきましょう」
レティシアは、数日、グレイシャを、見て、回った。決裁の、回り方。記録の、残り方。人の、動き方。
最後の日、彼女は、報告書を、閉じて、言った。
「妙な街ですね」
「妙、ですか」
「ええ。……ついこの間まで、一人の女性に、街全体が、ぶら下がっていた。そう、聞いていました。なのに、今、見ると。誰が、中心なのか、分からない」
レティシアは、広場の、掲示板を、見やった。
《この街は、あなたが、決める》
「調整役の、セレナ殿に、聞いても。『私は、旗を振っているだけ』と。ガロという男に、聞けば、『俺が、決めた』と。……誰も、自分が、中心だとは、言わない」
それは、かつて、リュネアに、下したのと、同じ、評だった。
「特筆すべき、中心人物。……なし。それが、この街の、いちばんの、強さです」
その頃、セレナは。
市場の、隅に、いた。
一人の、若い商人が、値付けで、迷っていた。決めきれずに、立ちすくんでいる。
以前の、セレナなら。代わりに、決めて、やっただろう。
だが、彼女は、しなかった。
代わりに、その、若い商人の、隣に、立って。
「大丈夫。あなたなら、決められる」
そう、言って、微笑んだ。
ただ、それだけ。
商人は、しばらく、迷って。それから、自分で、値を、つけた。
その顔が、決めたことで、少しだけ、明るくなる。
それを見て、セレナも、微笑んだ。
――ああ、そうか。
彼女は、ようやく、分かった。
華は、飾りでは、なかった。真ん中に、居座るためのものでも、なかった。
華とは。
人の、背を、押す、灯りだった。
自分が、真ん中で、輝くのでは、なく。人が、自分で、前を向く、その一歩を。ほんの少し、明るく、照らす、光。
いちばん、目立たない場所で。人を、前に、向かせること。
それが、華の、本当の、使い道だった。
王妃には、なれなかった。それは、セレナも、同じだった。
だが今、私は――
自分の華を、飾りでは、なく。誰かの背を、押す、灯りとして。
はじめて、正しい向きに、灯している。
「華ってのは、飾りのことじゃないんだろうな」
前作の番外編で、ガイウスが、エリアナに言った言葉です。
その答えを、セレナが、自分の生き方で、出しました。
華は、真ん中で輝くためではなく、人の背を押す灯りのため。
次回、エリアナが、この街を、去ります。何も、直さないまま。
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