第21話 降りるという選択
翌朝の、広場は、いつもより、人が、多かった。
セレナが、皆を、集めたのだ。何か、大切な話があると、誰もが、察していた。
彼女は、掲示板の、前に、立った。
その、いちばん上の、一語を、背に。
「今日は、報告では、ありません」
澄んだ声が、広場に、通る。
「お願いと、お詫びです」
人々が、戸惑う。セレナ様が、詫びる。そんなことは、初めてだった。
「この街の、掲示板に、私は、こう、書きました。《この街は、私たちが、支える》。……美しい言葉だと、思っていました」
彼女は、一度、目を、伏せた。
「でも、間違っていました。この言葉が、皆さんの、判断を、私に、預けさせて、しまった。困ったら、セレナに、聞けばいい。そういう、街に、してしまった」
ざわめきが、起きる。
「それは、違う、と。私が、伏せていた、あの日、皆さんが、教えてくれました。私が、いなくても。皆さんは、街道を、開けた。詫びを、まわした。ちゃんと、街を、動かした」
セレナは、顔を、上げた。
「だから、今日、これを、書き換えます」
彼女は、筆を、取った。
掲示板の、いちばん上の、一語を、消す。
《私たちが、支える》の、その上に。
新しく、こう、書いた。
《この街は、あなたが、決める》
「今日から、私は、最後の、確認を、しません」
空気が、張る。
「決めるのは、皆さんです。間違えても、いい。その責任は、決めた人が、負う。……そして、その人を、私は、支えます。決めることは、しません。ただ、隣にいて、背中を、押します」
誰かが、不安げに、言った。
「セレナ様は、いなくなるのですか」
「いいえ」
セレナは、微笑んだ。
その微笑みは、今までと、少しだけ、違った。人を、惹きつけ、真ん中に、集める、笑みではなく。人の、背を、前に、向けさせる、笑みだった。
「いなくなりません。ただ、真ん中を、空けるだけです。真ん中は、誰のものでも、ない。……そういう街の方が、きっと、強い」
反対は、出なかった。
不安は、あった。だが、その不安の、奥に。かすかな、誇らしさが、混じっているのを。セレナは、見て、取った。
自分たちで、やっていい。そう、言われた、誇らしさ。
広場の、隅で。
エリアナが、それを、黙って、見ていた。
一言も、口を、挟まなかった。挟む必要が、なかった。
セレナは、誰にも、教わらずに。自分の足で、ここへ、たどり着いた。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
誰かが、自分の言葉で、降りていくのを。ただ、黙って、見ていられる。
前作の第49話「降りる宣言」を、覚えている方は。
きっと、この場面と、静かに、重ねてくださったと思います。
同じ「降りる」を。今度は、華のある人が、自分の言葉で。
エリアナは、ただ、隅で見ていました。それが、彼女の仕事の、完成でした。
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