第20話 一語の差
その夜、セレナは、一冊の帳面を、開いた。
エリアナが、ガロに、渡した、記録帳の写し。ガロが、「もう、暗記した」と、笑って、貸してくれたものだった。
リュネアの、設計の履歴。その、最後の頁に。
三つの、言葉が、あった。
一つ、決定を、現場に返すこと。
一つ、記録は残し、決裁は残さないこと。
一つ、自分を、仕組みに、含めないこと。
セレナは、その、三つ目を、指で、なぞった。
――自分を、含めない。
彼女は、この、はじめの二つを、正しく、写した。街に、掲げた。誇りに、していた。
だが、三つ目だけを。
いつのまにか、こう、書き換えていた。
《この街は、私たちが、支える》
含めない、と、支える。
たった、一語。
セレナは、長い間、その、二つの言葉を、見比べていた。
なぜ、書き換えたのか。今なら、分かる。
「自分を、含めない」――そんな言葉は、こわくて、書けなかった。含めなければ、自分は、要らなくなる。飾りに、戻る。それが、こわかった。
だから、無意識に、書き換えた。「支える」と。自分が、真ん中で、皆を、受け止める。そうすれば、要り続ける。必要と、され続ける。
その、恐れが。
たった一語を、正反対に、ひっくり返した。
そして、その一語が。街を、丸ごと、逆向きに、した。
手順は、同じだった。記録も、決裁の形も、何もかも。ただ、いちばん最後の、心構えの、一語だけが、逆だった。
その、一語の差が。
人が、自分で決める街と。人が、彼女を待つ街を。分けていた。
華のせいでは、なかった。
華は、罪では、ない。人を、惹きつける力は、本物だ。
ただ、彼女は、その華を。「真ん中に、居続けるため」に、使っていた。
それが、間違いだった。
華は、真ん中に、居座るためのものでは、なかったのだ。
――では、何のために。
その問いの、答えは、まだ、出なかった。
だが、一つだけ、決まったことが、あった。
あの、掲示板の、一語を。書き換えなければ、ならない。
自分の、恐れが、書いた、あの一語を。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
自分の華が、何を、書き換えてしまったのかを、知っている。
そして、それを、書き換え直せるのも。私だけ、だった。
第9話で置いた「一語」が、ここで、いちばん深いところに、届きました。
華が悪かったのではなく、華の「使い道」が、逆だった。
セレナは、それを、誰にも教わらず、自分で、掘り当てました。
次回、彼女は、降ります。
前作のエリアナが、そうしたように。ただし、自分の言葉で。
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