第19話 誰が決めたのか
熱が、引いてから。
セレナは、エリアナの、言葉を、思い返していた。
――誰が、街道を、決めたか。ご自分で、聞いてみてください。私からでは、なく。
まどろっこしい、と、思った。教えてくれれば、いいのに、と。
けれど。
その、まどろっこしさの、意味を。確かめずには、いられなかった。
セレナは、床を、離れ、街へ、出た。
まず、ガロに、聞いた。
「私が、伏せていた間。街道の崩落は、誰が、決めたの」
「俺だ」
ガロは、ぶっきらぼうに、答えた。
「迂回路を、旧道に、した。予備費のことは、詰所の、若いのが、帳簿から、見つけた」
「私に、聞かずに?」
「聞けなかった。あんたが、寝てたからな」
悪びれもせず、彼は、言った。
「怖く、なかったの」
「怖かった」
ガロは、少しだけ、口元を、ゆるめた。
「怖かったが。……止まらなかった」
次に、マレンに、聞いた。商団への、詫びは、誰が。マレンは、「私ですわ」と、胸を、張った。「セレナ様の、確認を、待っていたら、間に合いませんでしたから」
最後に、ニコに、会った。
少年は、詰所を、覗いていた。以前は、掲示板の前に、いた子だ。
「セレナ様。あのね」
ニコは、目を、輝かせて、言った。
「ガロさんが、決めるとこ、見たんだ。かっこよかった。……ぼくも、いつか、自分で、決められる人に、なりたい」
その言葉が。
セレナの、胸に、静かに、刺さった。
以前、この子は、彼女に、憧れていた。「セレナ様みたいに、なりたい」と。
今、この子が、見上げているのは。華やかな、笑顔では、なかった。
自分で、決める、無愛想な、背中だった。
街は、彼女が、いなくても。回っていた。
いや。
彼女が、いなかった、からこそ。回り始めて、いた。
セレナは、立ち尽くした。
嬉しいのか、寂しいのか。分からなかった。
ただ、一つだけ、はっきりと、分かったことが、あった。
エリアナが、なぜ、答えを、言わなかったのか。
もし、あの人が、教えて、くれていたら。セレナは、こう、思っただけだろう。「エリアナ様が、そう、言うのなら」と。
自分で、聞いて、まわらなければ。この、胸の痛みには。決して、たどり着けなかった。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
自分の街を、外側から、見ている。
それが、こんなにも、寂しくて。こんなにも、静かに、誇らしいものだとは、知らなかった。
教えてもらった答えは、借り物です。
自分で聞いて回った痛みだけが、その人のものになります。
エリアナの「沈黙」の意味が、セレナに、届き始めました。
次回、あの掲示板の、一語の前に、セレナが立ちます。
ブックマーク・評価、いただけると励みになります。




