第16話 半日で直る
事は、思いがけず、大きくなった。
街道の、共同管理区間で、崩落が、あった。長雨で、土手が、緩んだのだ。怪我人は、ない。だが、街道が、塞がった。
物流が、止まる。市場に、荷が、届かない。放っておけば、数日で、街の、蓄えが、尽きる。
急を、要した。
そして、その、いちばん、まずい時に。セレナが、床に、伏せた。
連日の、無理が、たたったのだ。高い熱で、起き上がれない。
街の、中心が、消えた。
現場は、混乱した。誰が、迂回路を、決めるのか。誰が、費用を、出すのか。誰が、商団に、詫びるのか。
全部、いつも、セレナが、決めていたことだった。
人々は、右往左往し、そして、エリアナのもとへ、来た。
「エリアナ様。あなたは、リュネアの、あの、エリアナ様だ。……どうか、指示を」
すがるような、目だった。
エリアナには、見えていた。
迂回路は、北の、旧道を、使えばいい。費用は、共同管理の、予備費が、ある。商団には、優先枠で、詫びればいい。
半日。いや、半刻もあれば。彼女が、口を、開けば。この混乱は、すべて、収まる。
できる。
指先まで、その、確信が、来ていた。
人々の、すがる目。止まった、物流。塞がれた、街道。
「エリアナ様が、決めてくだされば」――喉まで、出かかった、その答えを。
彼女は、飲み込んだ。
「……決めません」
声が、掠れた。
「私は、決めません」
「そんな……なぜ!」
「私が、決めれば。あなたたちは、また、次に、私を、待ちます。私は、半年で、帰る人間です。その時、誰が、決めますか」
人々は、言葉を、失った。
「答えは、あなたたちの中に、あります。ガロさんは、この間、自分で、裁いた。……できるはずです」
言い残して、エリアナは、背を、向けた。
背中で、人々の、戸惑いの、声を、聞いた。
振り返れば。一言、言えば。楽になる。皆が、救われる。感謝、される。
その誘惑は、はっきりと、そこに、あった。
足が、止まりかけた。
その時、隣に、ガイウスが、並んだ。
何も、言わなかった。ただ、彼女の、歩幅に、合わせて、歩いた。
それだけで、足が、また、前に、出た。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
振り返らない、ということを。振り返りたい気持ちごと、選んでいる。
前作の、ある「谷」を、覚えている方も、いるかもしれません。
今回は、外から来る要請では、なく。エリアナ自身の、内側の、誘惑として、描きました。
一言、言えば、皆が救われる。
それでも、言わない。――この街を、本当に立たせるために。
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