第15話 リュネアからの便り
リュネアから、便りが、届いたのは、その週の、終わりだった。
差出人は、ミーナ。
几帳面とは言えない、けれど、まっすぐな、字だった。
――お姉さん、お元気ですか。街は、変わりありません。
そう、始まる、短い手紙。
変わりありません。
その一言に、エリアナは、思わず、微笑んだ。
変わりが、ない。それは、彼女が、いなくても、街が、いつも通り、回っている、ということだった。
手紙には、細々とした、報告が、続いていた。
南区の、倉庫の件は、合議で、決めました。ロルフさんが、また、若い兵を、怒鳴っていました。バルドさんの、商団が、二つ、増えました。
どれも、エリアナの、確認を、経ていない、決定だった。
そして、末尾に、こう、あった。
――お姉さんが、いなくて、困ることは、ありません。だから、心配せず、ゆっくり、やってきてください。
困ることは、ない。
普通なら、寂しい言葉だ。だが、エリアナには、これ以上ない、朗報だった。
彼女は、その手紙を、ガイウスに、見せた。
「困らない、そうです」
「そりゃあ、困らんだろう」
ガイウスは、事もなげに、言った。
「お前が、そう、作った」
「ええ」
エリアナは、頷いた。
リュネアは、回っている。彼女が、いなくても。
それは、今、この、グレイシャで、彼女が、やろうとしていることの。たった一つの、証拠だった。
できるのだ。
一人に、寄りかからない街は、本当に、作れる。空想では、ない。げんに、隣の、辺境に、それは、ある。
グレイシャにも、必ず、できる。
セレナが、いなくても、回る街。それは、セレナを、いらない、という意味では、ない。むしろ、逆だ。
セレナが、いつか、疲れても。倒れても。その日も、街が、止まらないように。
それが、本当の、支えだ。
エリアナは、手紙を、丁寧に、畳んだ。
――届けたい。
この、ミーナの手紙が、伝えている、あたりまえのことを。あの、掲示板の前の、人たちにも。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
自分の、遺した街から、遠く離れた場所で、その街に、励まされている。
「困ることは、ありません」
これ以上の、成功の証明は、ないのだと思います。
リュネアという、確かな前例が、エリアナの背中を、押します。
できる。証拠は、隣にある。
第2幕も、あと少し。次回、いよいよ、エリアナの手が、いちばん、疼きます。
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