第14話 憧れの在り処
ニコは、セレナ様が、好きだった。
華やかで、優しくて。困った人を、笑顔で、助ける。街のみんなが、あの人を、見上げている。自分も、いつか、あんなふうに、なりたい。
人の、真ん中に、立つ人に。
だから、掲示板の言葉を、そらんじるのが、好きだった。《この街は、私たちが、支える》。かっこいい、言葉だと、思っていた。
その日、ニコは、詰所の、外にいた。
荷馬車が、二台、詰まっていた。商人たちが、揉めていた。セレナ様は、いなかった。
どうするんだろう、と、思って、見ていた。
そのとき、ガロが、言った。
「俺が、決めた。文句は、俺が、聞く」
ニコは、はっと、した。
ガロは、華やかでは、ない。無愛想で、口も、悪い。憧れる相手では、なかった。
なのに、その、ぶっきらぼうな、一言が。
妙に、かっこよかった。
荷馬車が、流れていく。詰まりが、ほどける。誰も、セレナ様を、呼ばなかった。それでも、街は、動いた。
ニコは、その光景を、忘れられなかった。
その夜、彼は、母に、聞いた。
「ねえ。ガロさんって、偉い人?」
「守備隊の、まとめ役だよ。偉い、っていうか……まあ、現場の、人だね」
「セレナ様より、偉い?」
母は、笑った。
「まさか。セレナ様は、街の、いちばん上の人だよ」
「ふうん」
ニコは、少し、考えた。
いちばん上の人が、いなくても。今日、街は、動いた。ガロさんが、決めたから。
じゃあ。
いちばん、街を、動かしたのは。
誰、だろう。
その問いに、答えは、出なかった。
ただ、一つだけ、変わったことが、あった。
次の日から、ニコは、掲示板の言葉を、そらんじるのを、やめた。
代わりに、詰所を、覗きに行くように、なった。
ガロが、どんなふうに、決めるのか。それを、見たくて。
――自分も、いつか。誰かに、聞かずに、決められる人に、なれるだろうか。
その憧れは、もう、華やかな、笑顔には、向いていなかった。
憧れの矛先が、「華のある誰か」から、「自分で決める人」へ。
そして、いつか「自分」へ。
前作でミーナが辿った道を、今度は、エリアナの手を借りずに、この街の子が、歩き始めます。
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