第13話 聞かずに決める
それは、ほんの、偶然から、始まった。
街道の詰所で、荷馬車が、二台、鉢合わせた。どちらも、先に、通りたい。狭い区間で、譲れば、半日、遅れる。
いつもなら、ガロは、セレナの裁定を、待った。
だが、その日、セレナは、村の陳情で、手が、離せなかった。
商人たちは、詰所で、苛立ち始めていた。時間が、過ぎていく。
ガロは、記録帳を、開いた。エリアナに、渡された、あの写しだ。
そこには、リュネアで、似た件が、どう、裁かれたかが、書いてあった。答えでは、ない。ただ、履歴だ。
「先に、着いた方を、通す。ただし、遅れた方の、翌日の、優先を、約束する」
リュネアの、記録には、そう、あった。
ガロは、しばらく、それを、睨んでいた。
それから、顔を、上げた。
「先に、着いたのは、どっちだ」
「……こっちの、荷です」
「なら、通れ。おい、そっちは、待て。代わりに、明日は、お前を、先に通す。俺が、約束する」
商人たちは、一瞬、戸惑った。
「セレナ様の、確認は」
「要らん」
ガロの声は、自分でも、驚くほど、低かった。
「俺が、決めた。文句は、俺が、聞く」
荷馬車は、動き出した。
諍いは、それで、終わった。
――終わって、しまった。
ガロは、しばらく、その場に、立ち尽くしていた。
心臓が、妙に、速い。
決めた。自分で。誰にも、聞かずに。
もし、間違って、いたら。もし、あとで、セレナに、叱られたら。
その不安は、確かに、あった。
だが、それ以上に。
荷馬車が、詰まりもせず、流れていく、その光景が。
妙に、誇らしかった。
夕刻、戻ったセレナに、ガロは、そのことを、報告した。
セレナは、少しの間、彼を、見つめた。
「……よかったの? 私に、聞かずに」
「悪かったですかね」
「いいえ」
セレナは、微笑もうとして、少しだけ、失敗した。
「いいえ。……いい、裁きだったわ」
その声が、どこか、寂しげだったことに。
ガロは、気づかなかった。
――俺は、はじめて、自分で、決めた。
街が変わる瞬間は、いつも、こういう、小さな一人から、始まります。
今回、エリアナは、何もしていません。ただ、記録を、置いただけ。それでいいのです。
セレナの、あの寂しげな声の意味は、この先で。
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