第12話 ふたりの王太子妃候補
二度目の茶は、セレナの方から、誘ってきた。
今度は、街の話は、しなかった。
しばらくの、沈黙のあと。セレナが、先に、口を開いた。
「あなたは」
いつもの、やわらかな声。だが、その奥に、初めて、硬いものが、あった。
「必要と、されなくて。平気なの?」
問いは、まっすぐ、エリアナに、向けられていた。
エリアナは、茶器を、置いた。
「平気では、ありません」
「では、なぜ」
「必要とされ続けることが、街を、弱くするからです」
「……弱く?」
「一人がいないと、止まる街は、強くありません。脆いんです」
それは、かつて、王都の、セドリックが、口にした言葉だった。エリアナが、王都に、遺してきた、考え方。
セレナは、しばらく、黙っていた。
「私は」
やがて、彼女は、言った。
「私は、逆だと、思っていました。誰かが、しっかりと、支える。その、太い柱が、あるから、街は、立っていられる、と」
「柱は、折れます」
「折れないように、するのが、私の、仕事です」
「あなたが、折れたら」
エリアナの、静かな問いに。
セレナの、言葉が、止まった。
「あなたが、倒れたら。この街は、その日から、止まります。……昨日の、半日が、そうだったように」
セレナの、顔から、血の気が、引いた。
あの半日のことを。彼女も、気づいていたのだ。ただ、認めたくなかった、だけで。
「……意地悪な、ことを、おっしゃる」
「はい」
エリアナは、否定しなかった。
「でも、事実です」
二人の間に、また、沈黙が、落ちた。
同じ、王太子の、隣にいた。同じ言葉で、「華が必要だ」と、告げられた。
華がないと、外された女。
華があると、選ばれかけた女。
なのに、今、二人は。
まったく、同じ問いの前に、立っていた。
――必要とされること。それは、幸福か。呪いか。
「私は」
セレナが、絞り出すように、言った。
「私は、飾りには、戻りたくない」
その一言に、彼女の、すべてが、あった。
エリアナは、それを、静かに、受け止めた。
そして、こう言いかけて――やめた。
(飾りに、戻るのでは、ありません。あなたは、外れても、なお――)
その先を、言うことは。今の、セレナには、まだ、届かない。それに、それを、教える自分が、また、新しい、中心に、なる。
エリアナは、言葉を、飲み込んだ。
「……お茶、いただきますね」
冷めかけた茶を、口に、運ぶ。
それが、その日の、精一杯だった。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
言える答えを、飲み込むことが、いちばん、難しい。
すれ違いの、いちばん深いところが、言葉になりました。
「飾りに戻りたくない」――セレナの、その恐れに。
エリアナは、答えを持っています。でも、まだ、言えません。
第2幕も、後半へ。次回からは、街の人々が、少しずつ、動き始めます。
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