第11話 支えるということ
セレナには、朝から夜まで、やることが、あった。
商団の、優先順位を、確かめる。詰所の、報告に、目を通す。市場の、揉め事を、裁く。村からの、陳情を、聞く。
どれも、最後は、彼女のところへ、来た。
疲れは、あった。だが、それ以上に、満たされていた。
人々が、自分を、頼る。困った顔で、やってきて、安堵の顔で、帰っていく。「セレナ様が、いてくださって、よかった」と。
その言葉を、聞くたびに。
セレナは、自分が、この街に、要る、と、感じられた。
王都では、ついに、一度も、感じられなかったものだった。
あそこで、彼女は、飾りだった。美しく、座っているだけの。誰も、彼女に、判断を、求めなかった。求められないことが、あれほど、こたえるとは、思わなかった。
ここでは、違う。
朝から夜まで、求められる。必要と、される。
だから、手放せなかった。
「最後の確認は、いらない」と、誰かに、言われたとして。
もし、そうしたら。
人々は、彼女のところへ、来なくなる。「セレナ様が、いてくださって、よかった」は、消える。
――また、飾りに、戻る。
あの、王都の日々に。座っているだけの、あの、寒い部屋に。
それが、こわかった。
支えることを、やめられないのは、優しさ、だけでは、なかった。その根に、必要とされなくなることへの、深い、恐れが、あった。
セレナ自身、そのことに、うすうす、気づいていた。
気づいて、けれど、見ない、ふりをしていた。
夜、記録棚の前で、彼女は、ふと、エリアナの言葉を、思い出した。
――最後には、自分を、外しました。
なぜ、あの人は、そんなことが、できるのだろう。
必要とされることを、自ら、手放して。さみしい、と言いながら、それでも、外れて。
その強さが、セレナには、まぶしくて。
そして、少しだけ、こわかった。
あの人の、いる方が、正しいのだとしたら。
自分が、この街で、いちばん、大切にしてきたものは。
いったい、何だったのだろう。
王妃には、なれなかった。
だが今、私は――
必要と、されなくなることが、こわい。
その、こわさの、正体を。まだ、見ないように、している。
セレナの善意は、本物です。
ただ、その善意の根に、「必要とされなくなる恐れ」が、絡んでいました。
悪人は、出てきません。
出てくるのは、こわがっている、ふつうの人だけです。
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