第10話 華の理由
セレナが、王太子妃候補に、選ばれたのは、ちょうど、前の候補が、退いた頃だった。
華がある、と。皆が、言った。
人を、惹きつける。場を、明るくする。彼女が微笑めば、堅い会議も、ほぐれた。それは、生まれ持った、才だった。努力で、得たものでは、ない。
最初は、それで、十分だと、思っていた。
王妃には、華が要る。象徴が、要る。前に出て、皆を、惹きつける誰かが。――そう、教えられた。自分は、それに、ぴったりだと。
けれど。
半年が、過ぎた頃。
セレナは、少しずつ、気づき始めた。
微笑むことは、できる。人を、和ませることも。だが、それだけだった。
輸送量を、どう、抑えるか。徴税の、時期を、いつ、ずらすか。会議で、そういう話に、なると、彼女は、何も、言えなかった。ただ、綺麗に、座っているだけだった。
華は、部屋を、明るくする。けれど、部屋の、寒さそのものは、変えられない。
王太子レオンハルトは、優しかった。彼女を、責めはしなかった。ただ、ある日、こう、言った。
「国を動かすのは、華ではないのかもしれない」
独り言のような、声だった。
彼が、誰のことを、思い浮かべていたのか。セレナには、分かっていた。前の、候補のことだ。華がない、と言われて、退いた人。
その人が去ったあと、王都の行政は、静かに、傾いた。誰も、気づかないほど、ゆっくりと。
華のない人が、いなくなって、はじめて。皆が、その人の、働きを、知った。
――華は、飾りでしか、なかったのだろうか。
その問いは、棘のように、セレナの、胸に、刺さった。
自分の、いちばんの、取り柄が。人を、惹きつける、その力が。国を動かすには、何の、役にも、立たない。
それを、認めるのは、こわかった。
だから、証明したかった。
華にも、できることがある、と。ただの、飾りではない、と。
リュネアの噂を、聞いたのは、そんな時だった。華のない人が、辺境の街を、立て直し、王都より、栄えさせた、と。
その、やり方を。手順を。仕組みを。
自分が、写して、みせれば。
華のある自分にも、街を、動かせると。証明できる。
そう思って、セレナは、王都を、出た。
グレイシャは、彼女を、迎えてくれた。人々は、彼女を、慕った。街は、目に見えて、明るくなった。
――ほら。
華にも、できる。
そう、思っていた。この、エリアナ・フォルツが、街に、来るまでは。
王妃には、なれなかった。
だが今、私は――
華のある自分にも、街を、動かせるのだと、信じている。
その、信じているものが。少しずつ、揺らぎ始めていることに。まだ、気づかない、ふりを、していた。
セレナも、また、「華が必要だ」という言葉に、傷ついた一人でした。
ただし、エリアナとは、正反対の向きに。
外された人と、選ばれた人。
その二人が、同じ言葉の、裏と表に、立っています。
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