第3話 手順は、同じ
翌朝、街道の再交渉が始まった。
場は、思いのほか、整っていた。関係者が揃い、資料が配られ、議事の順序も決まっている。リュネア側のやり方を、そのまま持ち込んだのだろう。
エリアナは、交渉そのものよりも、その回り方を見ていた。
議題は、共同管理区間の、費用配分。半年前は、ここで揉めた。折半という約束が、実際の負担では釣り合っていない、と。
だが今日は、違った。
グレイシャ側の担当者が、数字を出す。根拠を添える。妥当な案だ。リュネアとして、異論はない。
「では、この案で」
エリアナが言うと、担当者は、ほっとした顔をした。
――と、思ったのも、束の間。
その担当者は、資料をまとめると、部屋の隅へ目をやった。
そこに、セレナがいた。
交渉には、口を挟んでいない。ただ、座っている。
担当者は、セレナに向かって、小さく頷いてみせた。承認を、求めるように。
セレナが、微笑んで、頷き返す。
それで、ようやく、担当者の肩から、力が抜けた。
エリアナは、その一連を、黙って見ていた。
午後、街道の詰所を見に行った。共同管理の実務を、確かめるためだ。
案内したのは、守備隊をまとめているという、男だった。
「ガロだ」
無駄のない名乗り。四十絡み、実直そうな面構え。どこか、リュネアのロルフを思わせる。
詰所は、よく機能していた。巡回の割り振り、報告の様式、揉め事の記録。どれも、丁寧だ。
「ここまで整えるのは、大変でしたね」
「セレナ様の、おかげだ」
ガロは、迷いなく言った。
「あの人が来てから、街は変わった。何をすればいいか、分かるようになった」
「判断は、現場でしているんですか」
「ああ。……基本は、な」
わずかな、ためらい。
エリアナは、聞き逃さなかった。
「基本は」
「まあ、大事なことは、最後にセレナ様が見てくださる。それで、安心できる」
安心。
その言葉が、静かに、胸に引っかかった。
リュネアでは、そうではなかった。
誰も、最後の頷きを、待たなかった。待たなくていいように、彼女は仕組みを作った。むしろ、最後に自分が頷いてしまうことを、いちばん、警戒した。
手順は、同じだった。
議題の出し方も、記録の残し方も、判断を現場に渡す形も。何一つ、間違っていない。
なのに。
どこかで、逆を、向いている。
「どうした」
ガイウスが、隣で聞く。
「手順は、完璧です」
「それは、褒めているのか」
「……分かりません」
珍しく、エリアナは、言い淀んだ。
王妃にはなれなかった。
だが今、私は――
同じ形をした、別のものを、見ている気がした。
手順は、同じ。記録も、同じ。
なのに、どこかが逆を向いている。
その"どこか"を、次回、もう少しだけ、覗いてみます。
ブックマーク・評価、いただけると励みになります。




