Ⅰ 5-25
一瞬、「このままベッドルームに連れ込まれるのか」と思ったが…。
がちゃっとドアを開けると入り口脇の照明のスイッチを入れた。其処は何だかとても威厳に満ちた部屋だった。歌や音楽以外にも、ファッションや家や家具や調度品に対する造詣も深い貴教から見ても「これは…」という古風な一品ばかりが揃えられ配置されていた。
(これはケンのセンスなのか? それともこの娘の? いや、専門家にお任せしたんだろう。金にものを言わせて。まず此処に顧客を引き込めば、そりゃ、本当の価値は解からなくても何となくは伝わものはあるだろうし、ビビるだろ。で、「やっぱスゲー人なんだ」なって思うだろうな)
アンナはそのままつかつかと室内に入って行き、ソファに座るとニコニコ顔で隣りを両手でポンポンと叩いた。「隣りに座ってよ!」ということだろう。貴教は言われるままに隣りに腰を下ろした。
「最初に眼が合った時、感じたんだけどな。こっちから呼ばなくても、すぐに来てくれると思ったのに」
(!)
「なのに、タカノリちっともこっちに来ないんだもん。あんなおじいちゃんやおばあちゃんと話してて何が楽しいの? ちっとも楽しくなんかないでしょ?」
視線はオンリーショルダーで口を開く貴教。
「い、いや、楽しいとか楽しくないではなくてだ…ですねえ…」
(俺の裁判の件でここまで来たってとこまでは聞いてただろうに。それなら、本人が立ち会わないわけにはいかんだろう。常識的に)
と想う以前に、
(こいつクソビッチなんやろな。メチャクチャ男を手玉に取ってきたんやろうな)
と想った。
(ミナト区女子とかパパ活女子とか夜職界隈とか、そりゃ、常識的な世界じゃないんだろうが…)
女の子が付く様なお店からももう随分と足が遠のいて(それでも付き合いや接待でであり、自分から率先して行ってはいない。翌日にパフォーマンスに支障をきたすなどプロとして以ての外である)いる。
貴教が長年活躍している芸能界というのも非常識という意味では大概ではあるのだが。
「あたしのこと、アンナって呼んでね」
再びギュッと両手を握られてニコッと微笑まれた。
「う、うん」
“覚えのある感覚”に一瞬躊躇したが、パッと両手を振り解いて膝上に置いた。
「あらあら。あたしはあなたのお好みじゃないのかしら。タカノリ」
だって、お近づきになったら絶対ダメなタイプである。
(そもそもお前はケンの愛人じゃあないのか? 専属契約とかではないってことか?)
自分では全く自覚が無いのだが、何故か世間からは「女子力が高い」と想われがちな貴教である。
しかし、ハッキリ云ってそんなものは全然嬉しくない。
(そもそも、「女子力高~い」と言われて、「え、うれしい♡」などという男がいるのだろうか? 少なくとも、漢の中には、おらん)
自分が男ではあるが(筋肉ムキムキであっても)漢だとまで言うつもりは無いのもまた貴教である。
メディアで頻繁に取り上げられる「女子力」という言葉に個人的にはもう食傷気味、「はいはい、わかりました。女子力ね!」と敬遠したくなる――どころか今はもう辟易している。先代のアウディ(アウラングゼーブ)なら口から胃腸を裏返して吐き出し、辺りにぶちまけているところだ。
というのは、そこで定義されている「女子力高い女子」は、見た目に分かり易い――自分を過剰にブランド品で着飾ったり、これ見よがしなキラキラなライフスタイルをアピールしたい人だと感じるから。




