Ⅰ 5-20
空手バカ一代より更に前の領域に足を踏み入れました。
(それじゃあ、あの“テ○アイ”とか“和也”とも)
ムカッ腹が立った。
「私が同じ専門家の友人と交際するのは当たり前の話でしょう」
犯し難い説得力に、貴教は口を噤まざるを得ない。
「しかしあなたの舞台は立派な大審院の法廷なのであって、まるで批判大会の様な吊るし上げの場ではないんでしょ」、そう言いたかったが勇気が出なかった。
「此れは貴方もよく考えて頂ければならないことなのだが」
と、老弁護士は言葉を続けた。
「斯様な交際があるからこそ、私は依頼人の為に色々な点で少なからぬ便宜をはかって差し上げることが出来る。無論、此れは内輪の話ですが。
今は体調が思わしくなく、自宅から出らぬ状態が続いてはいるが、そこは何と言っても私――生ける伝説、スーパーレジェンド“ケン”である。何の心配も御座らん」
「『御座らん』って」
「言ったでしょう。私は超A級のカリスマ弁護士であり、法曹界の帝王であると」
ここで再び自らの右手の親指を突き立て、自らの顔面を力強く指し示した。
「まあ、ここ最近の在り方は現役の皇帝というよりは、院政を布く上皇なのかもしれませんがな。ガハハハハッ!」
老弁護士はそう言うと豪快に笑った。
「此の人、本当に病気なんかな」というくらいの豹変ぶりである。
(わかった! コイツ実は見かけとウラハラにチャーケンなんやろ! ホントは「チ◯ージマン研!」なんやろ! やったらピチピチの黄色い全身スーツでも着とけよ)
「其の証拠に…。そろそろだろう」
ピンポーンという音が邸内に鳴り響いた。
すると弁護士は徐に電話を取った。
「そのままこちらに来て頂いてくれ給え」
内線で支持を与えたのは間違いないだろう。そしてその相手は先程インターフォンの相手をした女給兼看護師でもあるアンナなのは間違いあるまい。
(誰が来たんだ? 確かさっきまでの会話じゃ、この爺さん健康状態が思わしくないからアポは暫らく取ってないって言ってたぞ。だとしたら見舞客か? でもそれならさっきの爺さんの『そろそろだろう』って何だ? 毎日若しくは特定の曜日かなんかにきっちり定時にやって来る見舞い客がいるっていうのか? それならそれで、其の前の『其の証拠に…』ってのはどういう意味だ? 直前迄の話の流れは「何なら老いてなお盛ん。私仕事できまっせ」って流れだったぞ)
貴教がそんな事を考えているうちにコンコンと扉をノックする音がした。
「どうぞ」
扉が外から開けられた。其処に立っていたのは女給兼看護師と七、八十歳くらい貫禄のあるある老人だった。
「ふみこ。其の席を開けて隣りの席に移って貰えないか?」
ふみこはらしくなく(?)素直に其の言葉に従った。貴教もスタンドの様にふみこに付き従う。
新たに寝室に入ってきた、主よりは二、三十歳くらい若そうな老人は、ベッドで上半身を起こしていた主人とがっちりと握手し、さっき迄ばあちゃんの座っていた席に座った。
「話す事柄が事柄なだけにいつも通りサシでの話すものだと思っていたのですが」
ヨボヨボのじいさん見て、「チャーケン」って…。




