Ⅰ 5-17
是は予想通りという方は多いと思います。
ところがここでも貴教の心配は杞憂で終わってくれた。
此の時のばあちゃんは意外な程取り乱してはいなかった。
「私の話じゃないの。私の秘密じゃあないのよ」
ばあちゃんはそう言って病身の老人に背を向けてしまった。
「若しかしたら、俺の為に一生懸命振る舞ってくれいるの? ばあちゃん」
「もう議論は御免被る。早速返答をして貰いたい」という態度である。
(ばあちゃん。カッケー!)
祖母が何をしに此処迄自分を連れてきたかを、未だ其の孫は知らされていないし、解ってもいないのだけれども。
「それじゃあ、誰の話なんだい?」
病躯の老人声は弱弱しくなり、再びぐったり横になってしまった。
「私の孫の話なの」
とばあちゃんは言って、
「一緒に連れて来ているわ」
と老人の方に再び向き直って、貴教の方を手で示した。
「もしや」という顔をして老人は脇に置いてあった眼鏡を掛けた。
「超一流芸能人の南方貴教よ」
「おおお…」
病身の老人は俄かに元気を取り戻したかの様に上半身を再び起こして、貴教の方に手を差し伸べながら、
「来ていらっしゃるとは知りませんで失礼しました」
貴教も老人に反応しベッドの脇に歩み寄り握手した。
「私は“ケン”。此の界隈、此の業界で“ケン”と言えば知らぬ者などいない剛の者…」
(“剛”って。やっぱ、ケ○シロウとか飛○拳系なのか?)
「超A級の偉大なるカリスマ弁護士…」
「べ、弁護士!」
「自分でカリスマとか言うかな。そういう自画自賛は自称・天才、ニセ者ト○のア○バやぞ」と想う以上に、肩書にビックリしてしまった。
だけど、これなら納得である。何故、ばあちゃんが此処に連れてきたのか。
(これは迂闊だったな。いつ裁判が行われかわからない上に、明らかに通常では無い司法に晒されているっぽいとはいえ、準備くらいは、仮にも裁判っていうんなら、自分の弁護士の候補にあたりをつけておくくらいはやっておかなければいけなかった。
それにしても、何で俺の情報網には無かったんだろ? タクシーの運ちゃんに迄知れ渡っているような大物が。今の立場の俺にそんなレジェンドとパイプが無い筈が無いんだが…。見たことも聞いたことが無いぞ。こんなおじいさ…)
病躯の老人は貴教が何を考えているかなんぞお構い無しに、自らの右の親指を立て、自らを指して力強く己が名を名乗った。
「法曹界の帝王・“ケン”こと、我が名は飛鳥拳士郎!」
そういうことです。




