Ⅰ 5-15
其処は寝室だった。
ベッドの上で寝ていたパジャマ姿のお爺さんが上半身を起こそうとしていた。
貴教は思わず想ってしまった。
(これで暗殺拳振るうのは無理だな。核の灰を浴びたト○より明らかに動けなさそう。老師やるのも無理があるな。ゴ○(ゴ13)さんみたいに狙い撃つのも無理だろ。老眼で。ましてや、ばあちゃんがピンポンピンポン押してた時はそういう“プレイ”の最中で、あんまりしつこいから、脱がされかけたメイド服をなおして、いいとこだったのに、やも得ずインターフォンの対応に出たというのでもなさそう)
ばあちゃんを押しのける様にして素早くパジャマの爺さんの傍らに駆け寄ったメイドが言った。
「だから言ったじゃないですか。御主人様は体調が思わしくないって。だから、ここ数ヶ月はアポイントも一切入れていないんですよ。それでも、ケン…、御主人様に取り次いでみたら、『昔の知り合いだから会う』っていうからお通ししたのに」
ふみこはベッドの脇に近くに置かれていた椅子のうち、最も老人の顔の近くにあったものを更に近くに引き摺って、
「酷く悪いのかい?」
と言いながら、どっこいしょと腰かけた。
「またすぐビンビンになるよ」
「だといいんだけどね」
老人の声は弱弱しく、
「何だかとてもしつこくてね。呼吸も苦しいし、全然眠れないし、毎日目に見えて弱っていくようだ」
(普通はそうだろ。うちのばあちゃんレベルの御長寿になれば。ふみこが年不相応に元気過ぎるだけだと思うんだが。何ならこの爺さんも年の割には元気な方だと思うぞ)
元気一杯な方のアラ(ウンド)ハン(ドレッド)は同世代を励ます。
「そいつはいけないね。ちゃんと養生しているのかい? っていうか、出来ているのかい?」
ここでばあちゃんは若い娘の方をジロッと一瞥した。
(あかん。やっぱこのメイドさん、ばあちゃんのお眼鏡に適ってない)
「それにしても、じめじめと湿っぽくて暗い感じの部屋だね。この前来た時から随分経つけれど、あの時はもっとずっと親しみのある部屋だったよ」
ここでばあちゃんはメイドよりも老人にぴたりとくっつき、耳元で囁くでもなく普通の音量で、
「それから、あの娘だけど、あんまり気持ちのいい子じゃないね。どことなく気を許せないところがあるわね」
(これみよがし…)
貴教にも聞こえているのだから、其れよりずっと近い位置にいる――ばあちゃんとはそれこそ目と鼻の先という位置関係である――若い娘に聞こえていない筈が無い。
(お眼鏡に適っていないどころか嫌われていたか。
そうじゃないかなって想っていた…)
若い娘が此方をじっと見ているのに気付いた。いざ眼が合うと、おもわず乙女の様に逸らしてしまう貴教。
(だ、誰だか気付かれたか。まあ、どうせバレることだろうし。
にしても、どこかで見た様な気が…。
いや、今はそんなことを考えるな。今問題は…。)




