Ⅰ 5-9
「『世間様に対して何てだいそれたことをしでかしちまったんだい?』と言ってんだよ」
(…知らねえってこと? ばあちゃんも。だとしたら、此の事を国だかから聞かされているごくわずかな肉親も、おそらくは俺の断罪されるべき“罪”が何なのかは知らない…、聞かされていない? …のか?)
「稼ぎがあり過ぎるから脱税かい? それとも、もっと稼ごうとしてネズミ講にでも手を出したのかい? でなかったら、最近流行りのセクハラ――人様の娘さんを合意もなく手籠めにしたり、犯したりとかじゃないだろうね? もしかしたら、最近流行りのパワハラとかかい? 体格が立派になったから試してみたかった――なまじっか余計に筋肉を付けたから、増強させた筋力を発揮してみたくて誰かをぶん殴ったとか? 結果、最悪なことに相手が死んでしまって…、ま、まさか、殺人の現行犯で……」
「しねえよ! んなこと俺は何もしてねえ! 絶対にそんなことはしてねえよ!
何なら何一つ犯罪になんか手を染めちゃいない!」
「……本当かい?」
「本当だよ。全然、全く、嘘なんか吐いちゃいない!」
「だったら何で……」
「俺だってわからないよ。何で訴えられてんのか…。
この前の予備審問とかだってわけわかんなかったし…」
「だけどやっぱり裁判はあったんだね?」
「あれを裁判というのか…。連中は予備審問だとか言っていたけど……」
とても此処がニッポンだとは、ニッポンの司法だとは、ニッポンの司法の場とはとても思えなかったのではあるが。
「取り敢えず、そこじゃ“無罪”だったよ」
イ○ズマロックフェスがオ○タモント扱いされて、SIGAがヘ○ト・アシュベリー(ヒッピー文化のメッカだった頃の)扱いされた事迄態々話して聞かせる必要は無いだろう。
「だったら、なおさら闘わないと駄目じゃない!」
「へっ?」
(それはまあそうだけれど…)
言われてみて気が付いた。
その通りなのだ。
此れ迄は何時次がある――いつ何時“テ○アイ”が拉致りにくる――と内心毎日びくびくしながら過ごしてきたのだが…。逆に此方から攻勢に出る――何と魅力的な提言ではないか。貴教には腐る程潤沢な資金と誰が羨む人脈がある。嘗て無いドリームチームレベルの弁護団を結成することだって可能なのだ。ましてや、此方は無罪――少なくとも、貴教に自分が何かしらの罪を犯した自覚は無い――なのである。裁判で負ける余地等まるっきり無いではないか。
だが、ここに大きな問題がある。貴教には拭い切れない思いがあった。其れは「ここホントにニッポンで、俺はちゃんとニッポンの法で裁かれているのか?」、である。




