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Ⅰ 4-19

残り三話。

 …其れやったら、ほんの短時間稼働(最高値で通常比の3.43倍にも及ぶ出力を発揮するかもだけれども)しただけで、強制冷却とかで十分くらい動けなくなる等と云ってはいけない。

 あくまでも気合いとか気持ちの問題である。

 昔のエラい人は言っていたではないか。

 「元気があれば何でも出来る!」と。

 そういえば、あの方もまた素晴らしい肉体ーー筋肉の持ち主であったではないか。

 後に売れっ子となり、様々な仕事をこなし、「器用そう」、「上手く切り替えていそう」等と思われ勝ちな貴教であったが、実際の彼は複数の作業を同時にこなせる女性脳タイプというよりは、明らかに一点に集中して物事に取り組む典型的な男性脳タイプだというのが本当のところである。

 「己の不器用さを自覚しているので、やらなければならないことが複数ある時にどうすればいいか、いつもバランスの取り方や解決方法を模索しています。」、「僕の毎日を例えるなら、目の前に複数の橋があって、その一つをものすごいスピードではしりながら、時に隣り橋に飛び移っては猛ダッシュして……という感じ。」ーー貴教自身の言葉である。売れっ子になった後の、ではあるが。想えば、初めて歌番組のMCを務めた時も収録の度にアホみたいな量のフ◯スクを食べる事で強制的に頭を強制冷却し、一点に集中する事で乗り切ったものである。あの時だけである。あんなにも大量のフ◯スクを口に含んでいたのは。だって、明らかに健康に良くないんだもの。

 だけれども、貴教の本質は何も変わってはいない。昔から自己本位的自我の持ち主でありながらも同じくらい強い集団的自我であり、社会的自我の持ち主であったのと同様に。

 当時の、昔の貴教には多くの仕事どころか、全く選択肢そのものが無かった。あったとすれば、“自殺”くらいしか無かった。だが、アウラングゼーブーーアウディと出逢った事により一筋の途が開かれた。元より不器用で一点集中でしか物事をこなせない男性脳タイプである。ならば、他に目をやる必要が無く、器用に飛び移ったりする必要が無いーー寧ろ望む処ではないか! 唯只管に真っ直ぐ駆け抜けるだけ! 其れだけに全力を注げばいいだけじゃないか! S◯NIC(@S●GA)の如き最高速で。或いは第一部の最後で彼我の圧倒的戦力差を前に、それでもたじろがず、一縷の望みに全てを賭けて、V-MAXを発動させーー蒼い霹靂ならぬ蒼き流星と成りてグ◯スコの旗艦への特攻を敢行したエ◯ジの様に。

「俺は、生きる!」

 決意するや否や復活した想いがあった。既に死に絶えてしまっていたと思っていた感情が心の奥底から湧き上がってきた。其れは妬み等では無い。口惜しさであった。復活した生きる事への気力が、既に消え去ったかに見えた想いを、風前の灯ではあったが未だ失われてはいなかった魂を再び激しく燃え上がらせたのだ。

 「誰かに言われたことに腹を立てたり、傷ついたり、誰かと比べて悔しくなるのは、この人に負けたくない、自分にだってチャンスがあると思っているから。『すごいなぁ』と他人事として見ているのではなく、何かのきっかけや努力で自分にもチャンスがあると少なからず信じている」ーー心の何処で信じていた貴教というのは確かにいたのだ。生きてた。生きていたのだ。死んでなどいなかったのである。

 自分以外のアーティストの楽曲やパフォーマンスが良ければ良い程に激しく嫉妬し、ステージセット、照明、演出、衣装等を事細かにチェックし、「いいなぁ。俺もこんなのやってみたい!」と羨み、「うわ~、工夫次第でこんなに面白い見せ方が出来るとは……やられた!」と悔しがる。今は未だ確かに彼等の足下にも及ばない。スタート地点にすら達していない。だけど、そんな意欲と負けじ魂が再び蘇ったのである。

 アウディとの出逢いによって。

 以来、貴教は復活への糸口を必死になって模索した。精力的にデモテープをつくり、昔の伝手を頼りに歌える場所を必死になって探し求めた。

 そして、その傍らには常にアウディがいた。生き餌として、コオロギを与えるのには遂に慣れなかったのだけれど。

 「遂に」というのは……。



Ⅰの4

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