Ⅰ 4-14
そう言いかけたところで貴教は飼育ケースを脇に抱え、立ち上がり、立ち去ろうとしたところで、アマガエルがぴょこぴょことこちらに近付いてきた。
「……」
それでも貴教は背を向けて歩き出した。
「……」
だけど、どうしても気になってしまい、後ろを振り返った後ろの人々が何かを避ける様な動きをし、何かの動きを目で追っている。
「お前…」
アマガエルだった。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながらこちらを追って来ていたのだ。やはり完調ではないのだろう。祭りの屋台で売っていたポンプのカエルのおもちゃの様な低調なジャンプしか出来てはいなかった。全力で飛び跳ねていることは伺えるのに。
何故、貴教は件のアマガエルの体調が完全に回復する前に再びコンクリートジャングルに戻そうとしたのか? 此れ以上情が移るのを恐れたのである。
世話をしているうちに情が移ってきたということは勿論あったのだが、貴教は其れ以上に彼に、初めて会ったその時に線香花火の様に儚げなものではあったのだが、魂の共振の様なものを感じていたのだ。相手はアマガエルであり、歌も介していないのに。きっと完全回復まで付き添ってしまったらもう離れがたくなってしまう。だけど、今の自分は明日生きているかどうかすらわからない。募る一方の鬱。ほんのちょっとした事で揺らいだ気持ちがそのまま己の生命に何の躊躇いもないピリオドをうてるだろう確信がある。そんな人間が傍にいてはいけないと感じた。この今にも力尽きてしまいそうなのに、それでも前へ進もうとしていた、懸命に足掻く彼と自分では余りにも不釣り合いだと。
再び背を向けて行き過ぎようとした貴教であったが、そんなことを逡巡している間にもアマガエルは更にぴょんぴょんと飛び跳ねながら近づいて来る。既に足が止まってしまっていて、その場で小さく首を振るだけになった貴教に尚も接近し、遂にはすぐ足下にまで近づいてきた。
「……」
貴教はしゃがんで彼の方に右手を差し伸べた。実家で飼っていた犬が死んだという事を聞かされて以降、「家に犬や猫がいることは癒しになるけれど、本来そういう場に住まない動物を人間の都合に合わせて住まわせて、果たしてそれでその子たちは幸せなのか」という風に考える様になっていた。不思議な事にこの一瞬だけは微塵もそんな想いが貴教の脳裏を過ぎることはなかった。
するとアマガエルはごく自然に差し伸べられた右手のひらにぴょこんと跳ねて乗っかった。
「…帰ろうか」
と、いう訳で漸く前を向いてくれました。貴教。
この先は此の小説が完結する迄“原作”準拠のネガティブーー其れは自死等決して考えないベクトルでのネガティブです。作者なりに物語の主人公として機能して頂くのが前提とはいえですが。本小説の原作者的には「“原作”の御本人様をなぞっているだけ」という感覚でやっています。西川氏在り来りで思い付いたアイデアですし。




