Ⅰ 4-13
アウラングゼーブとしては出していませんが…。
其れは生きていた。
れっきとした生き物だった。
「アマガエル?
本物のアマガエルなのか?」
田舎ではよく見たが、「こんなところにいるものだろうか?」と同時に思った。そして、道行く人々が、いくら小さくとも、どうしてこんなにもスルーして通り過ぎてゆくのが解かった気がした。両生類なんてものは大抵の人が可愛いとは思わない。何なら貴教だって実家で犬を飼っていたし、深く愛していた。死んでしまった時にはもうこんなつらいおもいをするのならばペットなんか飼いたくないと思わせる程に(後に再び犬を飼ってはいるが)。だけど、昆虫の類は大嫌いだし触れるのも嫌だった。「あれは地球外生命体だ」というレベルで。両生類――カエルはどちらかといえば明らかに前者よりも後者よりの生物であった。道行く人々にとっても似た様なものなのだろう。色鮮やかな緑色の何かに気付いた人がいたとしても――いなかった筈はないであろう――其れがカエルだと知るや否や、一歩後ずさりするか、無視するかのどちらかであったのだろう。両生類の愛好家など愛犬家に比べればマイナーもマイナー。ドマイナーもいいところだ。それどころか「気持ち悪い」と嫌悪する者すら少なくはあるまい。
だけど、貴教は眼を離す事が出来なかった。地球外生命体寄りな筈の生物なのに。
だって、重傷を負っているか、重病を患っているのかが見て取れたから。
彼(後に性別は判った)は全く跳ねないのだ。カエルなのに。一見、ブローチに見えたのも原因もだからである。彼はそれでも這うようにしてどこかに向かっている様に見えた。動きは鈍く、何度も立ち止まりつつ。体に無理がきかず、体を動かしたくても動かない、動かせない。それでも必死に前へ。彼は進もうとしていた。貴教をそんな様子から眼を離すことが出来ず、しばらく見守っていたが、やがてアマガエルの前身は止まってしまった。一歩も前に進めなくなってしまった。だけど全く停止してしまった訳でもない。必死に前足を前方に差し出そうとはしている。ピクピクと震えているように見えた。貴教はいたたまれなくなった。瀕死の状態で、それでも死に抗っている様にしか見えなかった。気付いた時には愛おしく大切なものを押し抱く様にして両手でアマダエルを救い上げ、貴教は走っていた。死んで欲しくない。死なせてはいけない。生かせたい一心で。
一週間後、貴教はプラスチック製の飼育ケースを持って再びこの場所に戻ってきた。あの日、貴教がそのまま獣医の元に駆け込んだことによって、件のアマガエルは死なないで済んだ。貴教も甲斐甲斐しく彼の看病をした。まだまだ完治したという状態ではないだろうが、それなりには回復した。この先、生きていくことは出来るだろう。「こんなコンクリートジャングルで、此れ迄どうやって生きてきたのだろう?」と初めて見た時には思ったのだが、逆に言えば、其れ迄ずっとこんな世界で生きてきたのだ。「だったら大丈夫だろう」と判断した。
貴教は彼に初めて出会ったあの街路樹の脇迄やって来ると、その場にしゃがみプラスチック製の飼育ケースを路上に於き、フタを開けると、優しく中のアマガエルを両手で掬い上げると下に下ろした。アマガエルは其処からぴょこんぴょこんと前に跳ねると、貴教の方に向き直り、彼の顔を見上げた。
「…お前は生きろよ。
きっと大丈夫だ。
だけど俺は…………」
そうです。
あれです。
予備審問の前迄遡りますが…。




