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Ⅰ 4-10

やっぱり鬱っていうのは好まれませんかね……。

 なのに彼はこの期に及んでも歌を通じての他者との繋がり――魂と魂の交流、共鳴に想いを馳せ、其れが叶わぬ無念の思いに其の身を焦がすのだ。貴教というのは、自己本位的な自我としてはシンガーであり、それでも社会性を失わぬもう一つの自我を失わぬ、そしてそれがエンターテイナーであるという特殊な人間なのである。但し、相反する筈の双極による相乗効果よりにうちのめされるたるや……。「歌に自信は無い」という貴教ではある(謙遜ではあろうが)が、そんな事はあるまい。だがそれはあくまで技術的な事である。技術面ではまだまだ発展途上、成長の途中であると口にする彼ではある(「この先いくらでも更に自分は進化できる」と、現在アラフィフの彼は欠片も疑ってはいない)が、「歌に魂を込める事(込められる事)に関しては誰にも負けない」と自負し、この点に関しては絶対の自信を持っているのが彼――貴教という人である。

 それは昔から変わらない。其の点は一点の曇りも無く全く変わっていないのだ。

 其れは裏を返せば、「人の為になれる。役に立つことが出来る」「聴く者に喜びを与え。感動させなければならない」――其れは貴教の自負であり、自身に課せられた使命とすら感じているのである。自殺寸前の極限状態の鬱に憑かれていても尚、である。いや、寧ろだからこそより一層そうなのかもしてぬ。

 此の事は彼の性格からして、自己本位的自我と同レベルで持ち合わせている社会本位的自我及び集団本位的自我に於ける彼の(この点に於いては恐らく彼は無意識であろうが)認識である。三つの自我全て失われることなく共存し、其の全てが全く思うに任せず、まるで果たす事が出来ない。其れがどれ程までの相乗効果、負のスパイラルももたらすものであろうか。其れは刻一刻と指の先から順に少しずつ刃物で削っていく――凌遅刑に処されているが如き苦しみであったろう。

 結果論ではあるが、こんな発狂しそうな状況をそれでも生き延びたのは貴教の心の芯にあった幼少の頃から抱えていた生への執着の強さであったとしか言い表すことが出来ない。

 役立とうとしているのにまるで役立てないという此の状況は貴教のメンタルを削った。追い込んだ。社会に必要とされていない、誰にも見向くきもされていない、そうとしか感じられない砂をかんでいるような、かみ続けている様な日々――

「生きることは無意味であり、生に意味を付与するのは自己欺瞞だ。」――生来の貴教とは真逆の生に対する姿勢であり思考であるが、此の時代の彼の精神を蝕み、生きること自体を脅かし、疑う事しか出来ない惨めさ――



私はネガティブなのでそちらの方に目が行き勝ちです。勿論其れは本物では無く創作の貴教のベクトルのネガティブなので……、

鬱はまだ続くんですけど……。

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