Ⅰ3-12
勿論、そんな事は決して口に出しはしない。何しろ今、被告人として告訴され、およそ裁判とは言いかねる場で吊るし上げを喰らっているのは貴教自身なのだ。火に油を注ぐようなことは避けたい。でなければ、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
「ドラッグ・シーンの中でもごく狭い世界だから、同業者は互いに知人であり、そして自らを、世界の意識に変革をもたらし、魂をヘブンに導くエリート――アーティストだと自負していた。そんなプライドの高い彼らが自らの沽券を落とすような欠陥LSDを世に送り出すはずがない」
「だが、酷く粗悪なLSDは会場でばらまかれた…」
「そう。小さな黄色い錠剤は意図的に会場に持ち込まれ、ばらまかれた。摂取した者をハイにする代わりに恐ろしい幻覚を起こさせ、件のフリーコンサートのみならず、以降開催される全てのミュージック・フェスティバル、いや、のみならず、カウンターカルチャー、および、カウンターカルチャーの聖地に対する不信感を煽るために」
「ふあああっ?」
貴教の反応は無理からぬものだった。何しろ、イ○ズマロックフェスの評判を失墜させるにとどまらず――それだけでもとんでもないことだが――愛する故郷・SIGAのイメージをも悪化させんと画策されたものだったと言ったのだから。
ここで貴教はテ○アイがさっきから何度も自分を犯人であるように睨んだりチラ見していた事が気になった。確かに貴教は此の場に被告として拉致されて連れ出された。しかし、さっきからの「貴様がな」目線は「危ないイベントを主催した」主犯者を咎めるものとは毛色の違うものの様に感じていた。違和感が付き纏っていたし、拭えない。
(祭り自体を取り仕切るのと、露店のタコ焼き屋がタコ焼きを売るのとは別のこ…)
!
気付いて心底嫌になった。
「タコ焼きやおっちゃん…、俺がおっちゃんーー売人を呼び込んだって言うのか? この俺が? それでもって、ヤバいブツを捌かせたていたと? この俺が?」
「売ってはいなかったようだな。バラまいたようだ。というよりは、バラまかせた。貴様がな」
「はあっ?」
「タダで。気前良く、盛大に。FBIとか、BNDDとか、麻薬捜査官だとか、当然、本職も動員してな」
「はあっつ?」
「何ならヘル○・エンジェルスの気取りだか予備軍だかの、むやみやたらとビリヤードのキュー振り回している連中を動員したのも貴様だろ?」
「はあああっつ?」
もう無茶苦茶である。




