Ⅰ3-10
救護隊は運ばれてきた人たちにソラジンを注射していた。ソラジンはLSDで精神病性反応が出た患者に使用する標準薬なのだが効果は全く出ていなかった。医者の一人は、『配られたLSDには何か――ストリキニンかヒ素――が、混入されていたかもしれない』と語った。
土曜正午過ぎ、コンサートも始まって間もないというのに、救護隊の用意したソラジンは、既に底を尽きかけて…」
不謹慎にも此の時貴教は、「なんかウ○娘の笠○コラボの時のたこ焼き屋の、『たこピンチ』みたいだな」と想ってしまった。我ながら不謹慎だと思った。
(SIGA県人もやはり○西人ということか)
「…いた。医師の一人は『こんなに酷い幻覚症状は今まで見たことがない。マイクロフォンを使って客に注意を促すべきだ』と語った。そして、『医療救助ヘリコプターを待機させる必要がある』とも。粗悪なLSDはあまりに毒性が強い為、大量摂取した者が中毒症状を起こしそのまま死に至る可能性もあったのだ。
金曜の夜に散歩した時、ある女の子に『LSDをタダで上げる』と、ひっきりなしに声を掛けられたことを想い出した。その娘は小さな黄色い錠剤で一杯になった瓶を持っていた。フリーコンサートを妨害する為に誰かが意図的に粗悪なドラッグを広めているという考えを拭いきれなかった。言葉に詰まる程に不気味な予兆だった」
テ○アイはここで再びファイルを閉じた。
「…まあ、それはそうだろう。そういうつもりで呼んだのだから」
テ○アイは「貴様がな」という眼で再度貴教を見据えた。
「さっきから何だ! 何が言いたい!」
貴教は苛立ちを隠せない。
「大型ミュージック・フェスティバルなんてものにはバカなガキどもしか集まらないし、そんなところに集いしバカどもは、バカで過激なことしかしやしない。ならば、あらゆる手段を駆使してそんなバカどもは潰しにかかるべきだ。
…そうなのだろう?」
「まだ、そんなことを…」
「FBIにとって、ミュージック・フェスティバルなんぞというものは、若者の健全な関心を堕落させないようとする左翼過激派の企み以外の何者でもなかった。また、麻薬に立ち向かう連邦捜査局は、ミュージック・フェスティバルなんぞというものは、麻薬密売人が、より効果的にドラッグを捌くための場でしかないと確信していたのだから、両者が共闘するのは必然だった。そんな状況下で開催されるフリーコンサート…、潰せないのならば、せいぜい評判を落とす、出来る可能な限り失墜させようとするところだが、実は、それよりももっといい手があった。もっと長いスパン、大局的に観れば遥かに効くヤツがな」
「効くヤツ」という単語からはまるでドス黒い瘴気が漂っているような感じがした。
「言ったよな。フリーっていうのはちっともフリーじゃねえ。アホみたいに金がかかる。フリーコンサートなんてもんは何か旨味や目的がなきゃやらねえってことだ。何かをばらまくとか、特定のミュージック・フェスティバル一つ潰すとかじゃねえぞ。もっと破壊力のあるヤツだ」
ゾクッとした。
「それ以降開催される予定の似たような大型イベント全部、そっくりそのままデリートしちまうきっかけづくりだ」
「なっ…」
テ○アイは追い打ちを掛けてきた。




