Ⅰ3-2
“one second”ーー分量が少ないといっても、
【後書きはほんのちょっぴりのネタバレです。是は知っても楽しみを削ぐという程の事は無いですが、知りたくない方は読まない方が良いかもしれません】
「何これ?」
貴教にとっては或る意味では見慣れた風景が其処にはあった。其処には多くのオーデイヱンス達がいた。但し、貴教が日頃正対している人達とは根本的に異なっていた。其処にあったのは親しみや愛情や尊敬等というものとは程遠い感情の発露――猛烈なブーイングだった。
貴教は左右の二人の黒服に両膝を着かされた。
「一体これは…」
「予備審問だ」
右にいる黒服が答えた。
「予備審問だと? これが?」
「でなかったら何だ? どこに連れて来られたと思ったんだ?」
そういうものがあるというのは学習済みではある。この国――ニッポンではそういうものなのだと。
(だが、これは…)
「いやいやいやいや! 予備審問って、裁判所とかでやるもんじゃないのか?」
貴教のイメージでは裁判所というのは、証言台の正面に裁判官、向かって左には検事、右には弁護士、後ろに傍聴席があり、終始「静粛に。静粛に」と進行されるという感じだった。ところが、今、貴教が眼にしている光景といったら…。
「おかしいだろ! こんなの! こんなもん予備審問会じゃなくて、文◯大革命の批判闘争会だろ!」
吊るし上げられる予感しかしない。
そんな貴教を左の黒服が顎を掴んで強引に自分の方を向かせた。
「おい、貴様。SIGA県民だな?」
貴教はぽかんとしてしまった。この期に及んでまさかSIGA県民かどうか尋ねてくるとは。
「SIGAかと訊いているのだ!」
「は、はい」
今の貴教に「今さらかよ」と思うだけの余裕は無い。
「SIGA中だな?」
「何その質問」と考える余地も無い。
「SIGA中というのがSIGAの中学校という意味であれば、そんな中学はないです。SIGA県の県庁所在地はオオ〇市でSIGA市ではないですし、そもそもSIGA市などという市は存在しておらず…」
「やかましい! とにかく、SIGA中だったんだな!」
やばい奴だと判断した。
「…はい」
だから折れた。貴教の様な平和主義者でなくてもそうしただろう。下手に出なければ何をされるかわかったもんじゃない。
「…どこ中だ?」
「…ノ〇中学です」
「そんなことは訊いてない! そんなものは微々たるものだ!」
(そんな。訊いてるから応えているだけなのに…)
つくづくやばいとしか思えない。
「当時の髪型は?」
「はあ?」と言ってしまいそうになったが、辛うじて口から零れそうになった言葉を飲み込んで代わりに、
「丸坊主でした。校則で」
「ウソをつけ。ウソを。洋楽にカブれ、色気づいていた貴様は、爽やかな坊主頭にはしていなかったな?」
「何でそんなこと知っている? SIGAがどこにあるかもわかってなさそうな質問をしておいて」という気配はおくびにも顔には出さない。
「…心持ち長めだったかもしれません」
「心持ちだ?」
今から見れば確実にダサいのだが、当時、あれは精一杯のオシャレだった。オシャレとして編み出されたヘアースタイルだった。呼び名にしてみても――声に出してみれば尚更に――やはりカッコイイ響きではないあのヘアースタイル。
“Ⅰの 1”と“Ⅰの2”を足したより分量はあります。“Ⅰの3”。




