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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百九十七話 誰に似たんだ、この鈍感


 ルディがアベルに呼び出されたのはアルベルトの突撃の翌日の事。国王執務室に通されたルディに、アベルが『まあ座れ』と眼前の椅子を顎で指す。


「……では……失礼します、陛下」


 そうは言っても、という感じで丁寧に頭を下げるルディ。そんなルディに、少しばかり面倒くさそうな顔でアベルはひらひらと手を振って見せる。


「父上で良い。面倒くさい。これは謁見ではない。家族の会話だ」


「……父上。なにか御用でしょうか?」


 アベルの言葉にプライベート的な事と頭を切り替えて、ルディが椅子に腰を降ろしながら疑問の声を出す。そんなルディに、アベルは呆れた様な顔を浮かべて見せた。


「なにか御用って……お前な? 仮にも王子だぞ、王子。そんなお前が勝手に『婚約』したなんて聞いたからな?」


 ぐいっと身を乗り出して胡乱な目を向けるアベル。そんなアベルに、思わず『うっ』とした顔をして見せるルディ。


「……え、ええっと……」


「聡いお前に今更いう事では無いことだろうけどな? 王族の結婚は身内の慶事じゃないぞ? 国家行事だ、国家行事。お前の勝手な考えで結婚も離婚も……まあ、婚約破棄も出来ないんだよ」


「……申し訳御座いません。その、べ、別に婚約をしたわけでは無いのですが……」


 しどろもどろになりながらもなんとかそう返すルディ。そんなルディに、アベルの眉がピクリと動き、そのまま難しそうな顔になる。


「……おい? まさかクラウディア嬢もクリスティーナ姫も遊びだったとか言い出すんじゃないだろうな? 言っとくけど、そっちの方が問題だぞ?」


 正に国家的な大スキャンダルである。ディアは国家の超重要人物の娘であり――加えて、国家一のバカ親の娘なのだ。クリス? こっちのがもっと問題だ。国際問題になる。


「そ、そういう訳ではありません! 勿論、真剣に考えています!! か、考えていますが……」


「考えていますが?」


「……正直、今は私の気持ちが先行していると言いましょうか……父上の説得はこれからの、いわば口約束の様なものでして……」


 冷や汗を流しながらそういうルディ。そんなルディに、アベルは冷めた目を向ける。


「それじゃ、私が反対したら『無し』になるのか?」


「いいえ。駆け落ちします」


 返事はノータイム。そんなルディに、アベルは呆れた様にため息を吐いた。


「……まあ、お前ならそう言うだろうなと思ったが……それこそ国が割れるぞ、マジで。本当に勘弁してくれ」


「……」


 ルディとて、べつに国を割りたいとは思ってはいないし、戦乱の世が好きな訳ではない。ないがしかし。


「……王冠をかけた恋、という言葉もありますし」


「王冠じゃなくて戦争だけどな、かけるのは」


 はぁと小さく息を吐きながらやれやれと言わんばかりに目元を揉むアベル。そんなアベルに申し訳無さそうな顔を浮かべて、ルディは声を掛けた。


「その……こんな事を言うのは気が引けるのですが、出来れば父上にもご賛同を頂ければ……さすがにエディの婚約者を奪った様な形になるので外聞はあまり宜しくはないかもしれませんが……メルウェーズ公爵にもご説明には伺いますので――」


「いい」


「――なんとか……え? い、『いい』?」


「ああ、『いい』だ。これは構わないという意味での『いい』だ。そもそもクラウディア嬢がお前の事を慕っていたのは前々から分かっていた事だしな。国の都合でクラウディア嬢には申し訳ない事をしたが……罪滅ぼし代わりだな。その代わり――うん? どうした、ルディ? そんな変な顔をして」


「あ、ああ……い、いえ、その……」


「ああ、そういう事か? 勿論、クラウディア嬢と結婚という事になればルディ、お前が王太子、王位継承者だ。それは即ち次期国王という事になり、その覚悟を持ってこれからの事を考えなければならない。いいか? お前は昔から賢しいヤツだとは思っている。だが、お前のそれは精々『小賢しい』だ。国王とは、国のトップでは小賢しいだけでは駄目だぞ? 今までのお前の様な考え方では、決して人は付いてこない。国王とはどちらかと言えば裏方で、どちらかと言えば泥臭い仕事が多々ある。その際に大事なのは――」


「ああ、いえ、そうではなく」


「――そうではなく? まさかお前、クラウディア嬢とは結婚するが王位を継ぐつもりは無いとか言い出す訳じゃないだろうな? 言っておくが、そんな事は認められないぞ?」


「勿論、そんな事は言うつもりはありません。ディアと結婚するということは、『メルウェーズ家の娘』を娶るという事ですから。それはつまり、国王になるという事です。今まで……その、何でしょう? 逃げていた私では信じて貰えないでしょうが……」


 精一杯、尽くします、と。


「……ふん。それならいい」


 覚悟の決まった顔を浮かべるルディの表情に、アベルも少しだけ表情を緩めながら――何かに気付いた様に首を捻る。


「うん? それじゃ、なんだ? なにが『そうではなく』なんだ?」


 そんなアベルの言葉に、ルディは少しだけ遠慮がちに。



「ええっと……父上、気付いていたんですか? ディアが、その……僕の事好きだって」



「……誰に似たんだ、この鈍感は」


 むしろ気付かない方がおかしいと思いながら、アベルは今日一のため息を吐いた。



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