第二百九十八話 息子の成長はパパだって嬉しい
ルディの超鈍感発言に、アベルは再び指で目を揉みながら大きなため息を吐く。
「……あのな、ルディ? お前のその鈍感な所は誰に似たんだ? 自分で言うのもなんだが、私だってもうちょっと人の感情の機微に詳しいぞ?」
「そう言われましても……だって、僕ですよ?」
アベルの言葉にルディが自身を指差しながらきょとんとした顔を向ける。そう、ルディは自己評価が滅茶苦茶低いのである。
「……クラウディア嬢がお前の事を好きな事なんて、見ていれば分かるだろう?」
「いや、懐いてくれているな~とは思っていましたが……エディと僕なら絶対エディかなと思っていましたので」
「……クリスティーナ姫は? 流石にクリスティーナ姫のアプローチには気付いていただろう? 幾ら鈍感なお前だとしても」
「なんだか悪意のある言い方ですが……まあ、あれだけアピールしてくれていたなら、そら好かれているだろうとは思っていましたよ。鈍感ではないので、僕は」
「あれだけアピールされて気付かなかったら鈍感ではなく不感だがな。ともかく、そういう意味ではお前も少しくらいは自信を持っても良いだろう? クリスティーナ姫だって麗しい令嬢じゃないか。どこかお前は自己評価が低いフシがあるが……いいか? 謙虚なのは美徳ではあるが、行き過ぎた謙遜は決して美徳では無いぞ? 人としても……勿論、王としても」
「まあ、そこはおいおい直していきます。父上の仰る通り、王があんまり謙遜するのは臣下の不信を買いそうですし」
メンツ商売なのである、貴族。
「話が逸れましたね。確かにクリスの事は信用していましたし、揶揄われているとも思っていませんでした。いませんでしたが……蓼食う虫も好き好き、と言いますし……奇特な人なんだな~、クリスって、くらいの感じでした」
「……」
アベル、言葉もない。そして今は恐らく王都のタウンハウスに居るだろうアルベルトに心の中で謝罪をする。
「……確かにバカ息子かも知れないな、ウチの子」
婚約破棄したエディも問題だが、麗しき令嬢にあれだけ『好き好きアピール』をされて何にも気付かないこっちもこっちでどうかしている。むしろ、感情が籠っている分エディの婚約破棄よりもルディの鈍感の方が罪が深いかも知れない。
「……それで? クリスティーナ姫とも?」
「……はい。こちらはディア以上に難しいかも知れませんが……諦める気はありません」
決意の籠ったルディの瞳に、アベルの険しかった顔が少しだけ綻ぶ。
「父上? なぜ笑っていらっしゃるのですか? 流石に僕も本気ですよ?」
その笑顔に少しだけ馬鹿にされたのか、と思ったルディがむっとした顔を向ける。そんなルディに、『悪い悪い』とアベルは右手をひらひらと振って見せる。
「済まぬな。別にルディの覚悟を笑った訳ではないのだ。ただ……なんだ? どこか諦めの良いお前が、そこまで強い意思を見せてくれたのが少しばかり嬉しくてな」
アベルとて人の親なのだ。息子の成長は嬉しいものである。
「正にいい変化だよ、ルディ。私はお前が成長してくれた事が嬉しい。どういう心情の変化化は知らんが……」
「やめたんですよ」
「やめた?」
「諦めた、が近いですかね?」
「諦めた? ふむ……むしろ、諦めたとは言えないと思うが……」
そんなアベルの言葉に、ルディは肩を竦めて見せる。
「諦めるのを、諦めた、ですかね? これから僕は国王になる。クリスもディアも……それに、メアリも娶るのであれば、僕は国王にならなければならない」
「……」
「国王になる勉強は無理だと思った。エディの方が優秀だし、相応しいと思っていた。だから、僕は王になんかなれないと思った。だって、そうでしょう? なんだってエディの方が上手に出来る。なんだってエディの方が綺麗に出来る。なんだってエディの方がスマートに出来る。僕はエディには勝てない。双子で、一緒に生まれて、一緒に生活して、一緒に生きて来たのに、そこには明確な差が出ている。きっと、エディの方が良い国王になるかもしれない。僕では、駄目かもしれない。でも」
――そんな『諦め』を、『諦める』と。
「これから僕は国王になる。この国を、ラージナル王国を素晴らしい国にしてみせます、父上。その為には……諦めてなんかいられません。素晴らしい国にするために……皆が幸せに生きていける国を作るために」
頑張りますよ、と。
「……良い顔になったじゃないか、ルディ」
ルディのその言葉を聞いて、アベルの笑顔が深くなった。




