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この手をつかみたくて3  作者: えみっち
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マンションに戻り布団に寝かせる間も美鈴は目を覚まさなかった。甘い香りのしたお香のせいなのか、それとも何か薬でも飲まされているのか、さすがに陸も不安になり救急車を呼ぼうと携帯を手にした時、美鈴の目が薄っすらと開いた。


「美鈴」


陸の呼びかけにぼんやりとした表情のまま声の方に視線だけが動く。


「分かる?俺だよ」

「り…く…」


声は掠れていたが美鈴の唇がゆっくりと動き陸の名を口にした。


「うん。そうだよ」


陸は美鈴を起こすと抱きしめてキスをした。


「ん…」


陸の腕の中で美鈴が小さくもがき陸は唇を離した。


「苦しい…」

「ごめん」


そう答えたが陸の感情は止められなかった。

もう止めることができなかった。



目を開けると辺りはぼんやりと明るい。いったい何時なのであろうか。

横に気配を感じ少し顔を上げて焦点を合わせる。焦点が合った先には自分を見ている陸がいる。美鈴は驚いて体を起こしたが、頭痛と吐き気が激しく襲ってきた。横になっていた陸も体を起こすと美鈴の背中を慌ててさすった。


「大丈夫?気持ちが悪いの?」


なぜか全裸である自分の体を布団で隠しながら込み上げてくるものを押さえるように口元に手を持ってくる。陸は布団の横に置いてあった寝間着を手に取ると美鈴に羽織らせた。美鈴は立ち上がり寝巻きの前を掴みながらそのまま洗面所の方へと消えていった。


時刻は午前7時を過ぎていた。

陸は服に着替えると入ったまま出てこない洗面所をノックする。


「大丈夫?」

「……うん」


あまり大丈夫ではなさそうな低い声が聞こえた。

そしてしばらくして青白い顔をした美鈴が出てきた。


「水持ってこようか?」

「ううん。大丈夫。ちょっと着替えてくるから」


美鈴はふらふらと洗面所の奥にある部屋へ行くと長袖のTシャツにスエットのパンツに着替えて出てきた。


「アイス枕持ってこようか?それして寝てなよ」


美鈴が頷くのを見て陸は冷蔵庫からアイス枕を出し手早くタオルで巻き布団に座り込んでいる美鈴の枕元に置いた。


「落ち着くまで寝てなよ」

「うん、ありがとう…」


陸の言葉に美鈴は素直に横になった。陸は心配そうに覗き込み髪の毛を撫でてくれる。


「大丈夫だよ。気持ちが悪いのも少しおさまったから」


陸は頷くとあぐらをかき布団の横に座った。


「美鈴、昨日のこと覚えてる?」

「昨日?」


黙ったまま考えているようであったが顔を少ししかめた。


「何だか…よく覚えていない」


陸は小さく頷く。


「じゃあ…佐渡のこと、何か覚えてる?」

「佐渡くん?」


美鈴は空を見つめたまま考えていたが目が見開いた。


「帰りにチェックしたいものがあるから倉庫で待っててって言われて待ってたら突然誰かに後ろから襲われて…それから…」


言葉を止めた美鈴の表情に不安が広がっていく。

陸は美鈴の手を握った。美鈴が顔を上げると陸は美鈴の言葉をつなげた。


「美鈴はあいつの家に連れて行かれたんだよ」


陸の言葉に美鈴の目が再び見開いた。


「あのじゃあ私…っ」

「何もされてないっ!俺と高坂さんが助けに行ったんだよ。だから大丈夫!本当だから」


それは高坂が佐渡から聞き出した事だった。

結局その後、高坂は警察に電話をしなかったのだ。未遂事件であった為、事を大きくして美鈴に負担をかけたくなかったのだ。


「嘘は絶対言ってない」


陸の顔を見ていた美鈴は頷いた。


「そうだね。陸は嘘をつかないもんね」

「うん」


頷きながら陸は美鈴の手をぎゅっと握った。


「気持ち悪くなったのはたぶん変な匂いのする部屋で寝かされていたからだと思う。なんか甘ったるい匂いがしてたから」

「うん…髪からも匂いがする」

「後でシャワー浴びてきなよ。落とした方がいいよ」


美鈴は頷く。


「高坂さんは家に帰ったの?」

「あ…たぶん。電話はあったから大丈夫だよ。伝言で2、3日休んでゆっくりしろって」


何度か頷いていたが美鈴は黙ってしまった。

何か言いたげな表情に陸は首をかしげた。


「どうしたの?」


陸の問いかけに美鈴は陸を見たが照れた表情で目をそらしてしまった。

美鈴の様子に陸はピンときた。


「ああそっか。そうだよな。昨日、虚ろだったもんな。あんま覚えてないよな」


納得したように言うとにやりと笑う。


「大丈夫。今度はちゃんと起きてる時にする」

「そんなこと誰も心配してない」


陸の言葉に白かった美鈴の顔に少し赤みがさす。


「俺、もう待たないからな。美鈴は変なヤツに好かれすぎなんだよ。これ以上、俺は待てない」


きっぱりと言い切った陸の気持ちを折るように突然携帯が鳴った。

ため息をついて携帯を見た陸だったが顔をしかめて直ぐにとった。


「はい。あーー悪い。何でもなかった。うん、うん、今日?

あーーーーーそっか、仕事だった。え?行くって。ああ、じゃあ」


携帯を切った陸は美鈴が自分を見ていることに気がつくと少し肩をすくめた。


「夜理だよ。今日話があるからって店の方に来るんだよ。もしかしたら兄貴との結婚話かもな」

「本当?そこまで進んでたの?」

「多分だよ。たぶん。まさか兄貴の女関係の事じゃないと思うけど」


無きにしもあらずなので思わず苦笑いをしてしまった美鈴だった。

そんな美鈴を見ていた陸はふと思い出したように不満顔で突然文句を言った。


「そういやあ高坂さん、ここのスペアキー持ってたんだけど」

「ああ…そっか。前にこの部屋を使ってたから…」


少し間があったが驚きもしない美鈴の様子にさらに不満顔になると陸は子供のように文句を言う。


「何?高坂さんは持っているのに俺にはくれない訳?」

「そんなことないよ。私だって持ってる事知らなかったんだもん」


そこまで言ってふと、思い出したように美鈴は尋ねる。


「高坂さんのスペアキー使ったってことは、私のはないの?鞄の中に入れてあったはずなんだけど…」

「知らないよ。まさかアイツの家とか」


顔を渋くしてため息をついた陸の携帯がまたしても鳴り出す。


「あ…グットタイミング高坂さんだ。

はい、うん起きてるよ。大丈夫。うん、分かった変わるよ」


そう言うと美鈴に携帯を差し出した。

美鈴も体を起こすと携帯を受け取る。


「もしもし」


声をかけるといつもの高めの早口ではなく心配そうな低めの声が聞こえた。


「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。ありがとう。わぁ!」


電話途中にもかかわらず美鈴は奇声を発してしまった。陸が急に自分を引き寄せてあぐらをかいている足の中に座らせたのだ。驚いて離れようとしたが陸の手がガッチリと美鈴をつかんでいて動けなかった。


「え?何でもないよ。違うって」


陸の顔を見上げると知らん顔をしている。高坂の心配そうな声が携帯から聞こえる。


「あの、そういえば高坂さん、私の鞄知らない?ないみたいなんだけど…あ、本当?よかったっ!!!」


思わず最後の言葉が飛び跳ねてしまったのは、陸が背後から首筋にキスをしてきたからだった。陸はがっちりと抱きしめたまま美鈴を離さない。


「陸っ、高坂さん」


美鈴から携帯を受け取ると高坂の怒った声が聞こえた。


『ちょっと、陸くん!あんた何やってんのよ!』

「別に。スキンシップだよ」


陸はしれッと答える。


『もうっ、みっちゃんを苛めたら許さないからね。ほどほどにしてあげてよ』


高坂の声に小さく笑うと少し声色が真面目になる。


「あのさ、暫く美鈴休みでいんだよな。だったら、午後にでも高坂さんとこ行くよ」

『分かったわ。ちょっとゴタゴタしていると思うから電話をして。そしたら出て行くから。

みっちゃんのこと頼んだわよ』

「大丈夫」

『じゃあ、よろしく言っといてね』

「分かった、じゃあ」


携帯を切ると陸は美鈴の顔を見て笑った。先ほどの子供っぽい表情とは違う。


「午後にでも顔見せに行って来ようぜ。鞄ももらってくんだろ」

「うん、そうだね」

「そしたら、その後店に一緒に行こう。夜理が来るしさ」

「うん」


そこまで言ってから陸の表情がまた変わり囁くよう尋ねた。


「そんでさ…いいよね」


さすがに美鈴も観念したように頷いた。


「いいよ」

「だよな」


陸は悪戯っぽく笑った。

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