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この手をつかみたくて3  作者: えみっち
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夜理は、陸からの連絡がいつまで経っても来ないので遂に自分から電話を入れてしまった。


あれから何度も美鈴と会ったが特に変わった様子もなく、話題に出てくるのはお腹の子供の事が殆どで滝の妻であるひとみと連絡を取り合っていろいろなアドバイスをもらって準備をしていると言っていた。出産に快く思っていない怜と裕助にも祝福してもらえるようにしっかりしないといけないと笑って話してくれた。陸の事を聞いてもいつも通りであるとしか答えてくれない。まさかあの陸が言っていないのだろうか。


「突然にごめんなさい。ちょっと話しても大丈夫?」


突然の電話に陸も驚いたようであったが、いつもの調子で答える。


『大丈夫だよ。今、飯作ろうと思ってスーパーに向かっているところ』


コンビニではなくスーパーと言う所に思わず笑ってしまった。


「でも今外なんでしょう。後でまたかけるよ。急ぎの話ではないから」

『大丈夫だよ。つーか、夜理も飯まだならどっかで食う?』


陸の相変わらずな様子に何かほっとした。



日常生活で使うことを控えていたテレポーテーション能力を使って、夜理は陸の所まですぐにやって来た。陸は感心しながら夜理を見た。


「やっぱすごいな。俊さんの何度か見てるけど、それでもなんか信じられないんだよな…」

「俊さん、結構普通に使っていたものね」


夜理は、笑いながら言う。


「私は組織の人間だから普段使うことは許されていないんだけど、今日はGPSも置いてきちゃった」


夜理は舌をペロリと出した。

そんなおどけた夜理とは反対に陸は眉間に皺を寄せた。


「仕事以外でも居場所、分かるようにしとかないとダメなの?」


陸の表情を見て夜理は静かな笑みを浮かべた。


「こんな能力を持っていると便利なようで面倒臭いんだ。それに普通の人から見たら受け入れられないし脅威でしょう。能力で人を助けることが出来るかもしれないけれど、その反対に人を傷つけたり犯罪だって出来る」


陸は黙って夜理を見た。


「なんか思ってたより重いモノなんだ。俊さん、そんな話まったくしなかった」


夜理も頷く。


「俊さんがいた頃は、もう少し自由だったのかな。って言うか、俊さんは特別な存在だったからな」

「特別な存在? 能力がある事以外に何か他にもあるの?」


陸の問いかけに夜理は自分が言ってしまった事にハッとした。


「…それは、美鈴さんが話してくれた時に聞いて」


陸は真剣な表情で夜理を見た。


「美鈴、言わないんじゃないの?組織の中でも特別な存在ってよっぽどの事だよね」


そこまで言ってから陸は一度言葉を止めた。


「それって、俊さんになったり美鈴になったり出来ること?」


夜理は陸を見てから視線を下げた。口をつぼめて悩んでいたがため息をついた。


「昔、研究所でDNAの実験が行われていたんだって。映画で見るような特殊な能力を持った人間を創り出す研究。今は行われてはいないみたいなんだけど、20年以上前にその研究が一例だけ成功したと聞いた」


陸は黙って夜理を見つめる。


「それが俊さんなの?」

「生まれた時は普通の女の子で生まれてきて、出産に協力した女性が自分の子供として育ててきたの。でも15歳になった時、突然能力が現れて男の体になったって聞いたわ。それから組織に引き取られて研究所の河納博士が養父として俊さんの事をみていてくれたの」


夜理の話に陸は言葉をなくした。


「そんな事ってありかよ」


陸は目を見開いたまま夜理を見つめる。夜理は黙っている。


「実験で生まれてきて能力が現れたら現れたでいいように使われて、美鈴の気持ちなんて関係ないのかよ」


そこまで言ってから陸はハッとしたように夜理に尋ねた。


「もしかして今も美鈴は監視されてるの?」


夜理は首を振った。


「多分ないと思う」


躊躇いながらも夜理は話を続けた。


「俊さんが組織を離れる前に、組織内で事件が起きたの。DNA実験データーが全て無くなり研究に携わっていた研究員は全員死んでしまった。その研究で残されたのは俊さんだけ。でも俊さんは他の仕事で研究所にはいなかったし何も知らされていない。データーが消えたことも全員が死亡した事も。養父である河納博士が亡くなったことだけは伝えられたんだけど、なぜ亡くなったかの理由は教えられてないはず」

「……」

「その後、俊さんは組織を辞めたんだけど…」


夜理はそこで話を止めた。

組織を抜けるなんて事は簡単に出来ることではない。ましてや俊ほどの強い能力者を手放すなんて事は考えられなかった。話をしてくれた上司である怜は言わなかったが、この場所から俊を出すために河納博士が命を賭けて起こした事件だったのではないかと思った。


黙って聞いていた陸は突如躊躇いながら尋ねる。


「今更だけどさ、そんな重要な事、俺に話して大丈夫だった?」


本当に今更である。思わず夜理は笑ってしまった。


「聞いたのは陸くんだよ」

「ん…まあ、そうなんだけどさ」

「だって美鈴さんを守っていくんでしょう」

「そうなんだけどさ…」


陸の何かはっきりしない答えに夜理は訝しむ。


「もしかしたら言ってないの?」

「いや、言ったよ!でも言った後に色々あって危なかったと言うか振り出しに戻ったと言うか」

「なんだかよく分からないけど、結局何も変わってないの?」

「悪かったな」


陸はふてくされて文句を言う。


「兄貴に相談したのが良くなかったんだよ」

「陸くん、お兄さんがいたんだ。幾つぐらいの人?」

「え…? 33くらいだったかな。…女には手が早いから近寄らないほうがいいよ」

「陸くんが紹介してくれないと近づけないよ」


夜理は笑って言う。陸は肩をすくめたが店の方に向いた。


「店の中で話そうぜ。腹減った」

「本当だ、行こう」


2人は店の中に入って注文をすませる。

前に置かれた水を一口飲んでから陸は夜理をみた。


「あのさ、夜理が美鈴んとこ行く時に俺も一緒に行ってもいいかな」

「別にいいけど、1人では行きづらいの?」


怪訝そうな顔の夜理から陸は視線を逸らす。


「そうした方がいんだよ」


夜理は陸を睨むように見た。


「美鈴さんに何かしたの?」


陸は嫌そうな顔で夜理を見返した。


「別にいいだろう。俺だって男だぜ。だから頼んでんだよ」

「…何したの?」


夜理の追及に陸はため息をついた。


「抱きしめただけだよ」


夜理は黙ってしまった。


「抱きしめただけなの?」


陸はムッとして夜理を睨む。


「あのなあ、俺だって踏ん張ったんだよ。何で『だけ』発言されないといけないんだよ!」

「陸くん声でかいよ。みんな見てる」


夜理は笑いながら宥める。


「夜理テメーっ、美鈴の前では猫かぶってんだろう」


陸は嫌そうな顔をした。


「うん、そうだよ。美鈴さんの前ではね。陸くんだと話していると地が出ちゃうんだよね」

「最悪だな…」


夜理は笑う。


「でも、陸くんの美鈴さんに対するそう言うところって好きだな。

本当は突っ走りたいんだけど美鈴さんの体と気持ちを考えて我慢しているんでしょう」

「んー…まあそうなんだけど、バイク乗せちまったし怖がらせたしなぁ…」


頭を掻きながらぼやく。他にも何かあったのだろうが聞かないでおく。

夜理は笑顔で言った。


「明日船便が届くって言ってたから一緒に手伝いに行こう」


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