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「あなたが来たからバレたんでしょう。私のせいじゃないですよ」
月島は、カウンターでグラスを磨きながら自分の前に座っている海人に言った。店はまだ開店前で2人の他に誰もいない。スーツ姿の海人は、腹をさすりながら肩をすくめた。
「しかし、陸の奴も思い切り殴りやがって」
月島は笑ってしまった。
「一応、顔を殴らなかったという配慮はしてくれたみたいじゃないですか。
それより、若いもんは若いもんで何とかするでしょう。話だけ聞いてやれば、いいじゃないですか」
「そうは言ってもついつい手を出してやりたくなるし、ちょっとした意地悪もしたくなってしまうんでね。美鈴ちゃんも可愛く化粧していたし珍しくボディーラインを出した服装もしていたしね」
髪をかきあげてシレッと言う海人に月島ため息をついた。
「本当は陸の邪魔をしたいんじゃないんですか?」
「おや。心外だな。これでも弟を心配しているんだがね」
海人は笑うと立ち上がった。
「さて、そろそろむさくるしい顔ばかりの仕事場にでも出掛けるかな」
「お気をつけて」
月島の言葉に頷くと外へ向かって歩き出す。海人の表情もすでに仕事の顔にと変わっていた。外では車の側で待っていた男達が辺りを伺いながら車のドアを開ける。海人が乗り込むと車はすぐに新宿の街を離れていった。
暖かな陽気の午後、すっかり片付いた美鈴のマンションに陸と夜理が2人でやってきた。
2人にコーヒーを出すと美鈴もソファに腰を下ろした。
「へぇー、海人さんの誕生日パーティー」
陸が毎年、店のマスターと一緒に企画して貸切でお祝いをしているという話が出たのだが陸の様子を見るとイマイチ乗り気ではないように思えた。
「来週の水曜日ではあるんだけどね」
陸はダイニングテーブルの椅子に座って肘をついていた。
「なに?その口ぶりは」
美鈴の言葉に陸はため息をついた。
「最近アイツ意地が悪いんだよな。祝ってやる気も起きないだけ」
「おや、陸はいじめられているんだ」
笑って言った美鈴の言葉に陸は嫌な顔をした。
「いじめられるかよ。余計なことばかり言うから嫌なんだよ」
陸の表情を見ながら海人が陸にいろいろな事を言っているところが想像できた。
相変わらずブラコンの所は変わらないのであろう。
「私、陸くんのお兄さんに会ってみたいな」
2人の様子を見ていた夜理はぽつりと言った。
美鈴と陸は無言で夜理の顔を見る。
「2人にそんな顔をさせる人に興味を持ってしまうのは仕方がないと思うんだけどなあ」
夜理は笑いだす。
「いやいや、夜理ちゃん」
「お前、襲われるぞ」
2人の言葉に夜理は吹き出す。
「いや陸、さすがにそれはないでしょう。赤面セリフはたくさん言うかもしれないけど海人さん紳士だし」
「紳士?あんな大猫被ってる奴が?」
2人の止まらない会話に夜理の興味は更に煽られたようであった。
「ますます会ってみたい」
「別にいいけどさ、ほんと知らないぜ」
「誕生日パーティーに招待してあげたらいいんじゃない?マスターにも夜理ちゃんの事話したら会いたがっていたし」
美鈴の言葉に夜理ものる。
「わぁ!そしたら嬉しいなぁ。美鈴さんも行くんでしょう?」
夜理の言葉に陸も美鈴を見た。
「あ…私は来週の水曜は行けない。仕事の研修が入っているの」
「えっ!じゃあ私も行けないよ」
慌てて言う夜理に美鈴は首を振った。
「陸がいるから大丈夫だよ。ねっ、陸」
陸は美鈴の言葉に頷く。そして自分の事を訝しげな目で見ている夜理を見た。
「夜理が大丈夫なら来なよ」
「うん…」
コーヒーを飲みながら肘をついている陸を気にしながら夜理は返事をした。
帰り道、夜理と歩く陸は口数が少なくずっと前を向いている。
「美鈴さんの事、気にしているなら別の日にしたらよかったのに」
夜理の言葉に振り向きもせず陸は答える。
「別にそう言うことは気にしてないよ。かえって来ないでくれた方が良かったし」
「どうして?」
陸はため息をついた。
「兄貴が美鈴に構うから嫌なんだよ。前の時も美鈴に変なこと言うから面倒くさいことになったし、俺もあまり話したくない。まあでも、パーティーはやるから来なよ。夜理が来たら賑やかになると思うし」
そこまで言ってから陸は言葉を止めて夜理の顔を見た。
「でもほんと兄貴手が早いぜ」
夜理は笑ってしまった。
「大丈夫。何かあったら引っ叩いちゃうから」
「あ、いいねえ。調子に乗っているからそうしてもらいたいな」
夜理の言葉にやっといつもの陸に戻った




