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十一回目の十年へ

 

「……おにぃ……」


 真っ暗な暗闇の中。

 しばらく聞いていなかった聞き慣れた声がぼんやりと聞こえてくる。


「お兄ってば!」


 声とともに体を揺すられ、意識が次第に覚醒していく。

 目を開けると、目の前に妹の顔があった。

 妹を見たのが数年ぶりというのもあるけれど、まだ十四歳のあどけなさが残っている妹の顔を見るのは何度見ても懐かしく感じる。


「……シスタ……おはよう……」


「おはよ。朝ごはんできたからいい加減起きて」


「あぁ……」


 妹のシスタは部屋から出て、バタバタと下に降りていった。

 また、戻ってきた……。

 寝ていた体を起こし、部屋を眺める。

 数年ぶりのベッドの感触……部屋の匂い……妹の顔……。

 胸元に触れると、サラがくれた御守りではなく、青い宝石がついた指輪のリングネックレスが首にかかっていた。

 

「……」


 寝癖でボサボサの髪を掻きながら部屋を出て、階段を下りていくと少しずつ騒ぎ声が聞こえてくる。


「あっ、リアンが起きてきた」


「みんな突撃だー!」


「「「わぁぁぁぁー!」」」


 一階のリビングに顔を出すと、しっかり者のレイラがこちらに気が付き、ガキ大将のグレイの掛け声によって他の四人の子供たちがこちらに向かって勢いよく走ってきた。

 本人たちはタックルのつもりなのだろうが、複数人とはいえ相手は一メートル程度しかない幼い子供たち。


「おっ、とと……」


 少しだけふらつきながらもタックルしてきた子供たちが転んだりしないように受け止めた。


「「「「おはよ!リアン!」」」」


「あぁ、おはよう。今日もみんな元気だな」


 子供たちが俺の顔を見上げて挨拶をしてくれたので、俺も子供たちに挨拶を返す。

 一人ずつ頭をわしわしと撫でてやると無邪気に嬉しそうにしてくれた。


「リア、また寝坊?」


 子供たちの頭を撫でていると、呆れを若干孕んだ声が聞こえてきた。

 幼い子供たちから顔を上げ、テーブルの方を見ると、テーブル席についていた三人がこちらの様子を眺めていた。


「もういい歳なんだから、いい加減一人で起きなさいよ」


「まあ、そう言ってやるなよ、サラン。別にいいじゃねぇか。寝る子は育つって言うしな」


「親父殿は甘過ぎるよ。早起きくらいはそろそろ出来なきゃ、ね?リアン」


「そうだね。ごめんな、サラ」


「別にいい……。こんなことでいちいち謝らないで」


 三人とも既に朝食を食べ終えているようで、食後の飲み物が三人の前に置かれている。


「三人ともおはよう」


「おはよ……」


「おう」


「おはよ~」


 サラは顔を背けながら、親父は明るい笑顔で、モナ姉はのほほんとした穏やかな雰囲気でそれぞれ三種三様な挨拶をしてくれる。


「お兄。冷めちゃうから早く食べちゃってよー」


「あぁ、わかってる」


 台所で既に子供たちが食べ終えた皿を片付けていた妹のシスタに早く朝食を食べるように急かされた。


「ねえ、ヴィルは?」


「外でまた分厚い本読んでるー」


「またぁ?朝ご飯だから誰か呼んできてくれない?」


「ご飯いらないって言ってたよ?」


「えー……せっかく作ったのにぃ……。じゃあ、お兄たちで食べちゃってよ」


 そう言って、いつも本を読んでいる変わり者の十二歳・ヴィルの為に作った朝食がテーブルに置かれた。

 俺が朝食が置かれている席に着こうとすると、外へとつながる扉が開け放たれる。


「みんな、おはよ!」


 扉から首にマフラータオルを掛けた銀髪の少年が現れた。

 俺と同じ十七歳のロウ。

 おそらく毎朝の習慣になっているランニングの後に汗を流すためにいつも通り近くに流れている川で水浴びでもしてきたのだろう。

 髪がびしょびしょに濡れていた。


「ロウだー!」


「ロー!」


「くっらえー!」


 幼い子供たちは俺にもしたようにロウに向かって次々とタックルしていき、ロウの周囲に群がっていった。

 ロウは群がる子供たちを嫌がる様子もなく、挨拶をしながら頭を撫でたりして一人ひとり相手をしている。

 その様子を眺めているとロウはこちらの視線に気がつき、笑顔を向けてきた。


「おはよう、リアン」


「あぁ。おはよう、ロウ……」


「ロウも朝ご飯できたから早く食べちゃってよ」


「うん、わかった」


 ロウは首にかけていたタオルで濡れた頭をしっかりと拭きながら自分の朝食が置かれている席に着いた。


「よーし!みんな外で鬼ごっこやるぞー!」


 幼い子供たちはガキ大将・グレイの先導によってワイワイと騒ぎながら外に出ていった。


「危ないからあまり遠くには行かないようにねー!」


「わかってるー!」


 モナ姉の注意にグレイが走りながら手を挙げて答え、幼い子供たちは走っていった。

 俺とロウはシアンの作ってくれた朝食を食べ、サランとモナ姉は会話に花を咲かせている。

 妹のシアンは子供たちが食べ終えた皿を洗い、親父はこの家で飼っている鳥籠の中の蒼眸鳥(せいぼうちょう)に餌を与えていた。

 俺は……この有り触れた何でもない日常が好きだ。

 俺はただ失いたくなかった。

 もう二度と大切な人を失いたくなくて、そのために必死になって、血の(にじ)むような努力を積んだ。

 けれど、その末にたどり着いた結末があれだ……。

 俺は今から十年後。

 魔王に操られて、一番の親友であり、守りたかったはずの家族(ロウ)とあの場所で敵として戦うことになる。

 これまで何度もあの結末を避けようとしてきた。

 けれど、全てダメだった……。

 あの結末は絶対に変えられない。

 そして、ロウが俺に殺される度に十年前のこの瞬間まで世界そのものが巻き戻る。

 俺があの戦いでロウを殺してしまう限り、この世界は先に進まない。

 この十年間を無限にループし続けてしまう。


 今度こそ……今度こそ――ロウに俺を殺させる――。

今回で第一章の完結です!

ここまで読んでくださってありがとうございます!

次回から第二章に入りますが、これからも気長に読んでくださると嬉しいです!


よければブックマーク・感想・評価してくれると嬉しいですm(_ _)m

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