ロウ=メディウムVSリアン=リワード
「……何を、言ってるの……リアン……。……キミが、魔王の手下……?」
見開いた目に口角の上がった口元。
信じたくない現実にロウは明らかに錯乱していた。
「嘘、だよね……?変な冗談はやめてよ!」
「嘘でも冗談でもないさ」
泣き出しそうにすら見えるロウの言葉を真っ向から否定する。
「ロウ、現実を見ろ。今、お前の目の前にいるのはなんだ?」
「僕の親友のリアンだよ……」
「違う。今、お前の前に今いるのは敵だ。魔王の配下に下った裏切り者だ」
ヘラヘラと不敵な笑みを浮かべてロウを煽る。
「お前は魔王を倒すんだろ?魔王はこの先にいるが、俺はお前を黙って通すわけにはいかない。だが、俺が命令されているのはここから先の守護だけだ。今引き返すなら親友の誼で見逃してやる」
「ここまで来て引き返せるわけないだろ!」
「まぁ、そうだろうな。言ってみただけだ」
ここは魔王城の中で最もたどり着くのが難しい最上階。
ロウが今ここに一人でいるということはここに来るまでに多くの人に助けられ、何人もの人が犠牲になったのは容易に想像ができる。
ロウは自分の意思以前にその人たちの為にもこんなところで引き返せるはずがない。
「魔王の元に行きたいなら、俺を倒していけ」
「そんなの……!……できないよ……」
ロウは首を横に振り、辛そうな顔をして俯いた。
腕も脱力しており、全く戦う気がないのが見てわかる。
「戦わないなら、死ぬだけだぞ」
ロウの足元に錬成陣を作り上げる。
「ッ……!」
ロウは錬成陣が現れた瞬間に危険だと判断し、後ろに跳躍。
錬成陣の上から離れた瞬間に石槍が生成され、ギリギリで躱した。
ロウならこの程度の攻撃くらい躱せることは初めから分かっていたので、ロウの着地点に次々と錬成陣を作り、石槍を地面から生成していく。
ロウはその攻撃を連続でバク転し、全て躱していった。
「やめろ!リアン!やめるんだ!」
「やめるわけないだろ。無抵抗の奴を攻撃するのはあまり好きじゃないんだ。戦え、ロウ」
「だから!出来ないって!」
ロウは先程から柱の陰に隠れたり、壁や柱を足場にしたりと、広間を広く使って絶えず動くことによって、俺の攻撃を器用に回避し続けた。
ロウは攻撃を回避しながら、こちらに向かって叫んでくるばかりで鞘から剣を抜こうともせず、攻撃魔術を放とうとする様子もない。
「なんでだ?お前の魔王への憎しみはその程度だったのか?魔王を倒す。それだけの為に幼い頃から血の滲むような努力をこれまでしてきたんだろ。それが裏切った親友ひとりに止められる程度のものなのか?」
「キミだって魔王に両親を殺されて恨んでたじゃないか!それなのに……どうして!」
「そんな昔のこと、もうどうでもいいんだよ。いつまでそんなことに固執してるんだ」
「だったら、サラは!サラはどうするんだ!」
ロウのその言葉で攻撃の速度が僅かに鈍る。
「サラはあの家で今もキミのことをずっと待ってるんだぞ!周りに心配させないように無理に笑顔を作って、自分の辛い気持ちを押し殺して部屋で一人で泣きながらずっと!キミが生きてると信じて待ってるんだ!」
「……」
「サラだけじゃない!キミの妹のシスタも、モナ姉も、グレンも、レイラも、カイルも、フェイルも、リーンも、アリシャも、ヴィルも、リューゲさんも!みんなキミが帰ってくるのを待ってる!あの人たちを本当に裏切るのか?!裏切れるのか?!リアン!!!」
「うるさい!!!」
そう叫ぶのと同時に跳躍していたロウの背後である天井に巨大な錬成陣を描き、天井の石材を素材として錬成された石柱がロウを襲う。
「くっ……!」
それを視界の端に捉えたロウは空中で無理やり体を捻って体勢を立て直し、向かってくる石柱へ手のひらをかざす。
「――【豪火球】!」
手の平から火球を生み出す中級魔術【豪火球】を放ち、迫る石柱を見事に破壊。
しかし、石柱との距離が近過ぎたせいで自らが放った【豪火球】が目の前で爆発。
その爆風によってロウの体が吹き飛ばされる。
「ぐはっ……!」
ロウは体勢を立て直そうとするも上手く受身を取ることができずに背中からまともに落ち、勢いよく地面に叩きつけられた。
たとえ身体を強化していたとしても二十メートル近くある高さからの落下。
それにあんな落ち方をすれば、おそらくどこかしらの骨は折れているだろう。
しかし、ロウは仰向けの体勢から直ぐに体を転がしてうつ伏せになり、立ち上がろうとする。
「ゴハッ……!……」
今の落下で内蔵にダメージを負ったのか、ロウは口から血を吐いていた。
痛みのせいか手足も小刻みに痙攣している。
「俺を説得しようとしてるんだろうが、何を言っても無駄だ。ここを通りたいなら、俺と戦え」
「だから!!!そんなこと……出来るわけないだろ!!!」
痛みに耐え、顔を歪め、血を吐きながらもガラガラになった声で叫ぶ。
「だったら、ここで死ねよ!!!」
右足で地団駄を踏み、倒れているロウの真下の地面に錬成陣を描く。
「くっ……!――【全身強化】!」
ロウは全身への強化をもう一段階上げ、四つん這いの状態から後ろに飛んで、生成された無数の石槍をギリギリで回避した。
間髪入れずに俺は自分の目の前の地面に錬成陣を描き、生成した無数の石柱がロウを押し潰さんとして勢いよく向かっていく。
「――【神雷】!」
ロウは地面に着地するのと同時に人差し指をこちらに指し、加減のなしの【神雷】で応戦。
二つの攻撃が衝突するのと同時に周囲が眩い光に包まれた。
石柱は粉々に砕け散り、稲妻が乱方向に飛散する。
眩い光の中、ロウが柱や壁、床や天井を重力を感じさせない動きで縦横無尽に飛び回っているのが微かにわかる。
負傷しているにもかかわらずかなりの速度だ。
残像が見えるばかりでロウの姿がまともに捉えられない。
「赫灼たる深淵の火よ・呑みて・散り・唸り・焦がせ」
ロウは高速で移動しながら詠唱を始める。
この詠唱は――
「――【豪火球】!」
完全詠唱の【豪火球】。
ロウの放ったその火球は向かってくる速度は遅いが、通路を全て塞ぐほどの大きさで、先程石柱から回避するために咄嗟に放った詠唱破棄の【豪火球】とは全てが比にならない。
「――【突颶風】!」
ロウはさらに左の手の平から突風を放つ中級魔術【突颶風】を放った。
風に煽られた炎は火力を増し、【豪火球】の威力がさらにもう一段はね上がる。
「ようやく戦う気になったか」
高威力の【豪火球】から自分の身を守るために巨大で分厚い石の壁を錬金術で自分の目の前に作り上げようとしたその時――
「――【氷膜霜冷水】!」
ロウはさらに手の平から氷になる寸前の冷水を放つ中級魔術【氷膜霜冷水】を詠唱破棄で放った。
ロウの放った【氷膜霜冷水】は先程ロウ自身が放った【豪火球】に衝突。
「なっ!?」
【豪火球】に【氷膜霜冷水】が衝突したことにより、水蒸気爆発が発生した。
爆発の威力はそこまでではないものの、大量の気化した水蒸気が一瞬で広間全体を覆い尽くし、視界が完全に塞がれる。
水蒸気にならなかった【氷膜霜冷水】の冷水が雨のように降り注ぐ。
ロウはどこだ……。
「リアン、ごめん……!」
真っ白の水蒸気に覆われ、視界を奪われながらも神経を集中させて周囲に警戒していると、どこかからロウの声が聞こえてきた。
ロウは地面に降りるのと同時に【氷膜霜冷水】の水によって出来た足元の水溜まりに両の手を触れる。
「――【樹状乱放電】!」
「ぐっ……がはっ!?」
自分を中心に無差別に気絶するレベルの電気を放電する【樹状乱放電】。
空気中に飛散する水蒸気や【氷膜霜冷水】によってできた水溜まりに【樹状乱放電】の電気が伝導し、水溜まりの上に立っていた俺に感電する。
全身が【樹状乱放電】の電気で痺れ、視界が歪み、意識が揺らぐ。
堪らず俺は膝から崩れ落ち、地面に倒れた。
「ごめん、リアン……」
水溜まりを踏み締める音を響かせながら、ロウがこちらに近づいてくる。
「すぐに魔王を倒して戻ってくるから少しだけそこで寝ててよ」
倒れている俺の横を通り過ぎ、そう言い捨てて奥へと向かおうとしたその時。
ロウの真下に錬成陣が浮かび上がった。
「ッ……!?」
ロウはすぐに飛び退いたが、反応が遅れたせいで避けきることが出来ずにかすり傷を負う。
続いて、進行方向の床や壁、天井に無数の錬成陣が浮かび上がり、石柱が格子状に編み込まれ進路を塞ぐように巨大な壁が生成された。
「ロウ……」
ロウの名前を呼びながら地面に手をつき、体を起こそうとする。
【樹状乱放電】の電気で意識を飛ばされかけたせいで手足が痙攣し、足元がふらつく。
「……お前……!……なんで手を抜いた……!!!」
今のロウの攻撃は完璧だった。
けれど、それなのにロウは最後に【樹状乱放電】を俺に放った。
あそこで【樹状乱放電】ではなく、殺傷能力最強の雷系統の特級魔術【神雷】を放っていれば確実に殺せたはずだ。
それなのにロウは俺を殺さなかった。
そのことが俺には我慢ならない。
「言っただろうが……。ここを通りたいなら、俺を殺せって……」
ふらつきながらも立ち上がり、自分の周囲に数え切れないほど大量の錬成陣を生成する。
「本気で殺しに来いよ……。ぶっ殺すぞ」




