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人影

 第八階層への大階段を上がったあと、僕は一人で先へと進んでいた。

 第八階層に上がる為の大階段で他の班の応援が来るのを待つという選択もあるにはあるけれど、第八階層に上がる為の大階段はあの触手の魔物の先にある。

 第四部隊の女性隊士がすぐに応援に来れるような班は周囲にはいないと言っていたし、たとえ応援に来られたとしてもあの触手の魔物がいる。

 僕のように強化魔術などで自身の移動速度を上げられる隊士ならあの魔物の攻撃範囲から逃れ、抜けてくることも可能かもしれないけれど、それが出来ない隊士はまずあの魔物と戦うことになる。

 多くの隊士が第八階層に上がってくるにはあの触手の魔物を倒すことが必然になるけれど、あのレベルの魔物を倒すとなるとどうしても多くの時間がかかってしまう。

 リルドさん、セシカさん、ギルさんの三人に先を託された以上、そんな悠長に長い時間待っているわけにはいかない。

 そんなこんなで第八階層を一人で探索し、第八階層の捜索し始めてから小一時間が経った頃。

周絡伝送(インフォルモ)】で先程の第四部隊の女性隊士から連絡が入り、リルドさん、セシカさん、ギルさんの三人からの連絡がなかったことを伝えられた。

 これだけの時間が経っていて、未だに戦闘中で連絡が出来ていないという可能性はまずない。

 三人はあの魔物に殺られてしまったのだろう……。


「……すいません……」


 三人を置いて、第八階層に上がった時からこうなることを覚悟はしていた。

 けれど、こうして現実に確定してしまったことで罪の意識が重く体にのしかかる。

 もっと僕に力があれば……。

 あの魔物を瞬殺できるほどの強さが僕にあれば、あんな作戦は取らずに済んだ。

 僕が強ければ、僕とリルドさんとセシカさんとギルさん、四人で第八階層に上がってこられた。

 それどころか十三班の誰も死なせずに今も十人揃って無事でいられたかもしれない。

 僕がもっと強ければ……。

 もう、これで何度目かの喪失感が胸に穴を開ける。

 僕は強くなった。

 十年前、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に入った頃とは比べ物にならないほど強くなったという自信は確かにある。

 けれど、それなのに僕は何一つ守れた試しがない。

 仲間だった人の死は数しれず、尊敬していた先輩や幼い頃からの親友ですら守れない。

 いったい僕には何ができるのか……。

 そう思うと、自分に対する怒りの気持ちがフツフツと湧いてくる。

 だが、自分を責めるのは今じゃない。

 円柱の巨大な柱に自分の頭を強くぶつけ、額から血が流れる。

 俯くな。

 振り返るな。

 そんな時間は今はない。

 前を向き、足を動かして先に進め。

 一分一秒でも早く上に上って魔王を殺せ。

 リルドさん、セシカさん、ギルさん……十三班の……対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)全員の命を無駄にするな。

 これまで何も守れず、何も救ってこられなかったなら、せめて魔王を殺すくらいしてみろ、ロウ=メディウム。

 でなきゃ、僕は何の為にこれまで生きてきたのかわからない。

 自分への怒りを全て道を阻む魔物にぶつけ、ひたすら第八階層を進み、立て続けに第九階層、第十階層へと続く大階段を見つけていった。

 第十階層に来るまで多くの魔物と戦った。

 倒した魔物の数を数えるとキリがないけれど、少なくとも五百体はいただろう。

 中には触手の魔物のように未確認の魔物もいたけれど、そんなことを気にしている余裕は今の僕にはない。

 強敵な魔物に対しても怒りに任せて無茶な戦い方を続けた。

 そのせいで、普段は決して受けない攻撃も受け、かすり傷や打撲などの軽傷は全身に受けてしまっていた。

 血も多く流したけれど、運がいいことに重傷となるような深刻なダメージは受けずにここまで来られている。

 第九階層の大階段を上り、第十階層に上がると第十階層はこれまでの階層とは違って、分かれ道などが一切なく、目の前にはただ真っ直ぐの一本道が広がっていた。

 等間隔にある柱の間を駆けていく。

 罠のようなものはなく、本当にただの真っ直ぐな一本道が続いていた。

 警戒しながら、その一本道をしばらく走っていくと、廊下の先に立派な装飾がされている身の丈の何倍もある巨大な扉が現れた。

 一本道といい、この巨大な扉といい、この第十階層は明らかにこれまでの階層とは雰囲気が違う。

 扉に手をつき、力を入れると軋んだ重い音が廊下に響いた。

 扉の先で魔物が待ち構えているかもしれないので、扉の両側を開くようなことはせず、用心しながら片側だけを人ひとりが入れる程度だけゆっくりと開ける。

 扉の先を覗き見ると、大量の魔物が待ち構えているということはなく、同じような巨大廊下が続いていた。

 けれど、一つだけ。

 廊下の中央にこちらに背を向けて佇んでいる人影が見えた。

 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の隊士かと初めは思ったけれど、それはありえないことに直ぐに気がつく。

 第八階層からこの第十階層までの階段を見つけて報告しているのは全て僕だ。

 そして、第十階層はここまで一本道。

 僕が対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の中で最も進んでいるはずであり、僕よりも先に対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の隊士がいるはずがない。

 魔物か……?

 人型の魔物は数も種類も少なく、存在自体が珍しい。

 けれど、いないわけではない。

 今の扉を開ける音で僕のことには気づいているはずだ。

 触手の魔物のように攻撃を加えるか、先に行こうとしない限り危害を加えてこない門番系の魔物だろうか。

 遠くに見える謎の人影に様々な考えを巡らせたけれど、考えたところで答えは出ない。

 僕は何が起こっても対応できるように剣を構え、一歩一歩その人影へと慎重に距離を詰めていった。

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