開戦の夜明け
最終決戦の説明終了後。
それぞれ最終決戦で城内を攻める際に割り振られる班の人たちと集まって、初めての顔合わせを行った。
僕は二十個ある班のうちの十三班に振り分けられたのだが、第一部隊の知り合いであるアインスさんとツヴァイさんのヴィリング兄弟も同じ十三班に振り分けられていた。
十三班はセシカさん、クリスさん、ミランさんの女性隊士三名とケヴィンさん、ギルバートさん、ダンさん、リルドさん、アインスさん、ツヴァイさん、僕の男性隊士七名で構成されている計十名の班で、リーダーはメンバーの中で最年長であり、最前線部隊である第十部隊での戦闘経験も豊富なダンさんが務めることになっていた。
ダンさんの提案で最終決戦が行われるまでの五日間、お互いの連携を高める為に意識的に行動を共にするようにして関係を深め、訓練もなるべく十三班の人と行い、使える魔術や戦闘の実力などの情報をできる限り共有するようにした。
自分をギリギリまで追い込み、過去一番だと断言できるほど万全のコンディションに仕上げ、自分に出来ることは全てやった。
そして迎えた最終決戦の決行日当日。
「ふぁ〜ぁ……アホねみぃ……」
アインスさんが光り輝く星空を仰ぎながら心底眠そうに大きな欠伸をしていた。
もうすぐ最終決戦だというのに緊張感がまるでないけれど、アインスさんが欠伸をするのも無理はない。
上空は星が浮かんでいるような夜空だが、時刻的にはまだ朝日も昇っていない程の早朝。
そんな時間から僕ら第十部隊は一班から二十班まで順に並んで待機し、開戦の時を待っていた。
僕は十三班なので、列の中央よりも少し後ろ。
十二班に振り分けられたアングレウスさんの一つ後ろに並んでいる。
こんな夜も開けていない時間に外で準備を整え、最終決戦が始まるのを待っているのは最終決戦をこちらに有利なものにする為だ。
魔物は基本的に眠ることはなく、魔物の中には夜目が利くものもいる。
そういう魔物と夜に戦えば夜目が利かないこちらが不利になるので、対等な条件で戦うことの出来る日中にこちらとしては決着をつけたい。
なので、朝日が昇るのと同時にこちらから攻撃を仕掛ける手筈になっていた。
そして、一時間ほどが経った頃。
遠くの山から朝日が昇り、夜明けと共に空気が震えるような雄叫びが遠くから聞こえ、爆発音が響き渡った。
この場所からは少し離れているので見ることは出来ないけれど、たった今この戦争を終わらせる為の最後の戦いが始まったようだ。
僕ら第十部隊は第三部隊、第七部隊、第八部隊、第九部隊の四隊が魔物を左右に誘導するまで待機し、第二部隊に続いて城を目指すことになっている。
僕らはしばらく何もしないままいつでも行くことの出来る万全の態勢だけを整えて待つことしかできない。
仲間たちが命を懸けて戦っているにも関わらず、ここにいることしか出来ないことに歯がゆさを感じながらもその時が来るまでひたすら耐えて待つ。
そして、時刻が正午を回った頃。
「第十部隊、行くぞぉぉぉぉ!!!」
先頭の方から大声が発せられ、前から順に第十部隊の行進が始まった。
いいや、行進というよりもダッシュと言った方がイメージ的には正しいかもしれない。
長時間疲れず走れるように速過ぎず、けれども遅すぎない絶妙なスピードで進んで行く。
ここから魔王の城までは数キロもの距離があり、魔王城までの間は今まさに魔物対人間の戦場と化していて、僕らはそのど真ん中をこれから通過する。
速く走り過ぎれば、城で魔王と戦うまでの体力が持たないし、遅く走り過ぎれば、せっかくクレーター内の魔物を左右に引き付けた意味がなくなってしまい、他の魔物に行く手を阻まれて余計な時間を取られる可能性がある。
そこまで行くには速過ぎず、遅過ぎない持久走のような走りが理想だ。
ペースを一定に保ち、各班ごとに固まった列を乱さないようにしながら城に向かって走っていく。
次第に戦場へと近づいていき、先程まで戦闘が行われていた箇所まで来ると、多くの魔物と対魔王十一魔導部隊の隊士の死体が周囲にいくつも倒れていた。
腕だけが転がっていたり、顔がグチャグチャに砕かれて誰なのか分からなくなっている死体や体を無数の刃で貫かれている死体など、酷い殺され方をしているものもある。
中にはこれまで会って話したことのある人、見覚えのある人の死体も転がっていた。
「っ……」
無惨に散った仲間の死体。
立ち上る血肉の焼け焦げる臭い。
魔王の城に近づいていくほどに魔物と人の死体の数が増えていき、噎せ返るような臭いも強くなっていく。
対魔王十一魔導部隊に入ってばかりの頃、じきに仲間の死体を見ることに嫌でも慣れると言っていた人がいたけれど、何度この光景を見ても、何度この臭いを嗅いでも、過去の嫌な光景が幾つもフラッシュバックしてきて、激しい嫌悪感と吐き気が込み上げてくる。
「あまり見るな。辛くなるだけだぞ……」
僕の前を走っていたアングレウスさんが心配してくれたのか、こちらを向かずに前を見て走りながら声をかけてくれた。
「いいえ。大丈夫です」
けれど、僕はアングレウスさんの気遣いを断る。
対魔王十一魔導部隊には話したことがない人も多くいるけれど、同じ組織に所属している以上は紛れもなく仲間だ。
どれだけ辛い思いをしても、仲間の最後を見て見ぬふりをすることだけはしたくなかった。
「……そうか」
アングレウスさんはそれだけ言って、こちらを一度も見ることもなく、それ以上は何も言わないでいてくれた。
僕はそれからも走りながら多くの仲間の死体を目に焼き付け、心の中にある魔王への憎悪をふつふつと膨らましていった。




