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想起する想い

 一週間後。

 それぞれ配属が決まった隊の隊舎に向かうように言われたので、僕はいま最前線の少し手前にある第十部隊の隊舎へとやって来ていた。

 第一部隊から第十部隊に派遣されたのは僕以外にももちろんいて、双子のアインスさんとツヴァイさんのヴィリング兄弟や第一部隊隊長のルクス隊長、フィリスさんやリュシカさんなどの人たちは同じ第十部隊への配属なので一緒に第十部隊の隊舎にやって来ている。

 第十部隊の隊舎内にある講堂に集まるように言われたので講堂に向かうと、多くの隊士たちが既に集まっていた。

 ほとんどが第十部隊の隊士たちだが、中には第四部隊や他の隊で見かけたことのある隊士たちも何人かいた。

 きっと同じように第十部隊配属されてきたのだろう。

 人混みの中に入っていくと、正面に一際大きい背中が目に入った。

 あれは――


「アングレウスさん」


 入隊試験の時に一緒に黒獅子(ネグロリオン)と戦ったローガン=アングレウスさんだった。

 あの特徴的な魔獣の被り物を見間違えるわけがない。

 風の噂で第十部隊に入ったとは聞いていたけれど、こうして会うのは十年前の入隊試験ぶりだった。


「お久しぶりです。僕のこと覚えてます?」


 近づいて挨拶をすると、頭に被った魔獣の被り物が縦に揺れる。


「入隊試験で一緒だったロウ=メディウム、だったか……」


「凄い覚えてくれてますね。ありがとうございます」


「それはお互い様だ」


 アングレウスさんは特徴的な魔獣の被り物をしているし、体も普通の人よりもひと回り以上大きいので特徴があって覚えやすいけれど、僕の場合は大した特徴もない。

 十年前に一度会っている程度の関係性で名前をフルネームで覚えてくれているとは思わなかった。


「第一部隊からの配属か?」


「そうです。僕のこと、第一部隊にいるとかよく知ってくれてるんですね」


「噂で耳に入ってくる。相当腕を上げたようだな」


「まぁ、色々ありまして」


「……」


 この対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)にいれば、誰にでも思い出したくないような辛い経験はある。

 アングレウスさんもそれを察してくれたのか、それ以上は訊こうとしなかった。


「よーし、全員揃ってるな?」


 そのタイミングで聞きなれた少し明るめの軽快な声と共に奥から第一部隊の隊長であるルクス隊長が現れた。

 その後に続くようにして、第四部隊隊長のクレア隊長など立場の高い何人かの隊士の人たちも現れる。

 実力的にも立場的にも桁違いの人たちの中でも格の違う存在が一人。

 あれがアズガルド隊長……。

 ダリウス=アズガルド――魔王が現れる以前、まだ隣接の四国と戦争をしていた時代から戦場の最前線に立ち続け、戦い続けてきた歴戦の戦士であり、現在は対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の最高戦力である第十部隊の隊長を務めているお方だ。

 年齢は対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の全隊士の中で最年長。

 過去に戦場で右腕を失っていながらも、その実力は現在でも国内最強だと言われている。

 前々から一度会ってみたいとは思っていたけれど、こうして生で見るのは初めてだ。

 体はアングレウスさんよりもひと回り以上小さい。

 けれど、膨大な筋肉が無駄なく引き締められているのが服越しに見ただけでもわかる。

 全身に(まと)っている雰囲気もこれまでに感じたことがないほど静かで、大木にも似た何事にも決して揺らぐことのない不動の圧を感じる。

 明らかに只者じゃない。

 国内最強というのも納得の風貌(ふうぼう)だった。

 アズガルド隊長を見て、そんなことを思っていると、ルクス隊長が皆の前に出る。


「どーも。初めましての人もいるだろうが、第一部隊隊長のルクス=エドワーズだ。今回の作戦でこの第十部隊に配属されたのでよろしく」


 いつも通りの軽い感じで挨拶をしていく。


「早速だが、皆に集まってもらったのは俺のように他の隊からこの隊に配属された者たちとの顔合わせと最終決戦に向けた作戦の説明の為だ。顔合わせはあとから各々(おのおの)やってもらうとして俺の方から最終決戦の作戦説明をこれからさせてもらう」


 ルクス隊長は「一度しか言わないからよく聞くように」と前置きをしてから、最終決戦に向けた話を始めた。


「五日後。我々は敵地に乗り込み、最終決戦に挑む訳だが、偵察に向かった第四部隊の隊士から先ほど情報が入った。魔王城がある巨大クレーター内に黒獅子(ネグロリオン)翠虎(ヴェルドティガー)土塊人形(ゴーレム)骸兵(ボーンリッター)などの多種多様な魔物が視認できるだけでも合計約一万七千体。城の周囲を取り囲む触蝕樹(マンチニール)の森の中も正確な数は不明だが、数千体にも及ぶ強力な魔物が闊歩(かっぽ)していると予想される。城内の様子に限っては探ることが出来ず、どうなっているのか全くの不明だ」


「すみません」


 一人の隊士が手を挙げた。


「なんだ?」


「第三部隊のフェレン隊長でも城内を探るのは無理だったのでしょうか?」


 第三部隊隊長のフェレン隊長はオリジナルの魔術で対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の中では索敵の範囲、質ともに群を抜いている。

 フェレン隊長は元々第四部隊に所属していたのだが、その実力を買われ、若くして第三部隊の隊長の地位にまで上り詰めた人物だ。

 フェレン隊長なら数キロ離れた城内の索敵もいけるかもしれないと考えたんだろう。


「どうやら城に巨大な結界が張られているらしくてな。あのネコ女に索敵させたが、結界内までは流石にダメだったらしい。まあ、それらについてもこれから話す」


 そう言うと、ルクス隊長は一度咳払いをして話を区切り、続きを話し始めた。


「まず、俺たち第十部隊の役割は城に誰よりも早く侵入し、情報のない城内の情報を後に続く者たちに流す。そして、一刻も早く魔王のもとにたどり着き、その首を()ねる。言ってしまえば、これだけのことだ。俺たち第十部隊は初めは待機。中央から右側を第三部隊と第九部隊、左側を第七部隊と第八部隊が初めは攻め、魔物の意識を中央から左右へと向けさせる。そして、防衛が薄くなったタイミングで中央を第二部隊が左右に魔物を追いやるような形で攻める。俺たち第十部隊はその五部隊が開けてくれた道を通り、城へと向かう。先程言った城に張られている結界に関してだが、結界は俺が対処する手筈(てはず)になっているから皆は特に考えなくていい。城内に侵入後、第四部隊から派遣されてきた者たちは入口付近で待機。クレア隊長の指示の元、伝承鳥を飛ばし、【代眼(インステード・アイ)】で城内の情報を出来る限りかき集め、【周絡伝送(インフォルモ)】で他の隊士たちに状況を伝達してもらう。この時、第四部隊の隊士たちには護衛を何人か付け、残りの全員で城を攻める。城内は入り組んでいて、多数の強力な魔物がいることが予想されるので、予め通達しておいた二十個の班に分かれて城を攻める。こちら側が決めたそれぞれの班のリーダーには場所の把握や状況確認の為に【代眼(インステード・アイ)】を施した伝承鳥を連れてもらうから覚えておくように。そして、もし魔王の元に辿り着くことが出来た者は伝承鳥がいる場合なら何もしなくていいが、伝承鳥が殺されたなどの理由で手元にいない場合は可能であれば、【周絡伝送(インフォルモ)】で場所や状況を知らせろ。伝承鳥もおらず、【周絡伝送(インフォルモ)】も使えないような状況の場合は基本的には他の隊士たちの応援がくるまでその場で待機。交戦がやむを得ないような状況なら戦って構わない。その場の判断に任せる。説明は以上だ」


 ルクス隊長が連続で話を続け、ものの数分で今回の作戦の説明が終わった。

 たったこれだけかと思うかもしれないが、たとえこの場で細かく作戦を決めたところでそんなものにはなんの意味もない。

 戦場では不確定要素が多すぎる。

 しかも今回は城内の情報が皆無(かいむ)なので、尚更何が起こるかわからない。

 だからこそ、隊士一人一人のその場での判断が大事になってくる。

 この場で下手に決めてしまうとそれこそ混乱の元なので、最低限のことを決める程度で留めておくのが一番いいのだ。


「なにか質問はあるか?」


 ルクス隊長が質問を求めたが、誰も手を挙げようとする様子がない。

 誰からも質問はないようだった。

 ルクス隊長はそれを確認すると、後ろを振り返り、クレア隊長とアズガルド隊長に向き直る。


「お二人は何か話すことあります?」


「私はない」


「では、一つだけ――」


 クレア隊長は特に話すことはないようだったが、アズガルド隊長がルクス隊長と入れ替わるように前に出た。

 アズガルド隊長の気迫に空気が張り詰め、物音一つしない静寂に緊張が走る。

 アズガルド隊長は注目する隊士たち全員の顔を見て、耳が痛くなるほどの静寂を破り、ゆっくりと口を開く。


「今この場にいる皆に問う。この対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に入った時のことを覚えているか」


 その言葉で対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に入った頃のことを思い返す。


「この対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)には皆も知っているように事情がある者が多くいる。ずっと共にいた家族を失った者、仲の良かった友人を失った者、愛していた恋人を失った者……それは人それぞれだろう」


 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)にいる隊士には訳ありの人が多い。

 いいや、多いというよりほとんど全員が訳ありだと言ってもいいだろう。

 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)がやっているのは戦争だ。

 四六時中、自分が死なない為の訓練と敵を殺す為の訓練を積み、命を懸ける日々。

 こんな命がいくつあっても足りない戦い、魔王に対して相当の恨みでもない限り、まずもたない。

 僕は幼い頃に父さんと母さんを魔獣に殺されている。

 リアンもご両親とお姉さんを魔物に殺されたとむかし言っていた。

 他の隊士たちも似たようなものだろう。

 この対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)にいるのは大切だった何かを過去に失ってしまった人ばかりだ。


「改めて皆に問う」


 アズガルド隊長のその声で我に返り、頭をあげる。


「この対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に入隊した時、胸に刻んだ決意を忘れてはいないか」


「大切なものを失った時の喪失感や絶望感、己の無力さや魔王に対する憎しみを忘れてはいないか」


「これまでの戦いで散っていった仲間たちの声を、顔を、想いを、生き様を、忘れてはいないか」


 落ち着いた静かな声でありながら、どこか怒気(どき)(はら)んでいて、重みのある言葉が隊士たちの胸に響く。


「今この場にいるのは対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の中でも戦闘力に(ひい)でた精鋭たち。そして、この戦争で何かを失った者たちの想いと戦場で散っていった仲間たちの想いを一身に背負った者たちだ。この中の誰かが魔王の首を()ねることになる」


「こんな馬鹿げた悲劇はもうたくさんだ……。いい加減終わらせなくてはならない。これが最後の戦いだ。――必ず勝つぞ」


「「「おぉぉぉぉぉぉー!!!」」」


 アズガルド隊長の怖いほど静かな決意の言葉に隊士全員が同調し、空気が痺れるような咆哮(ほうこう)が第十部隊の隊舎中に響き渡った。

 魔王の首を()ねる。

 それはこの戦争を終わらせることと同義だ。

 この場にいる全員の手にこの戦争を終わらせられる可能性がある。

 そして、その可能性は僕のこの手にもしっかりと握られている。

 殺された父さんと母さん、親友のリアンの為。

 そして、リアンを失って悲しんだサラやシスタ、戦争のせいで苦しんでいる人たちの為にも魔王は必ず殺す。

 最終決戦に向け、改めて自分の中で決意を固めた。

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