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三年後。そして、終結へ

 リアンがいなくなってから三年もの年月が流れた。

 あの日から僕はこまめに手紙を家族に送るようになり、二日以上の休みが取れる時には必ずみんなのいるあの家に帰るようになった。

 みんなの精神状態が心配だったのも初めはあったけれど、あの日をきっかけにみんなとの時間を大切にしておきたいと思う気持ちがより一層強くなったからだ。

 悩みや辛い出来事は時間が解決するとよく言うように三年も経てば、部屋にこもっていたシスタも徐々に回復したようで、今では以前のように家の家事をして過ごすようになった。

 サラも未だに時々辛そうではあるけれど、夜な夜な泣くことはなくなったようだった。

 行方不明になってから三年経った今でもリアンは戻ってきていない。

 もし万が一、まだリアンが生きていたとして、あのリアンがサラやシスタたちを放ったらかしにして、こんなにも長いあいだ帰ってこないはずがない。

 そう考えると、リアンはあの日に死んでしまったのだと思う。

 サラはリアンはまだ生きているんじゃないかという希望をまだほんの(わず)かに持っているようだけれど、僕の中ではリアンが行方不明になったあの日からリアンは死んでしまった存在になってしまっていた。

 リアンが死んでしまってからのこの三年。

 僕はより一層自分を追い込んで、自分を殺すような勢いで鍛錬(たんれん)を積んだ。

 努力量に比例して実力も伸びていき、剣術も魔術も三年前とは比にならないレベルになったと自分でも思う。


「ぐはっ!」


「くっ……!」


 夕暮れ時の修練場(しゅうれんじょう)

 先輩隊士二人が僕の目の前で尻もちを着いた。

 弾き飛ばした模擬戦用の二本の木剣が地面に転がる。


「だー!クソッ!また負けたー!」


「ほんと強いなぁ、ロウ」


 第一部隊の先輩二人。

 空を仰いで悔しがっているのがアインス=ヴィリングさん。

 そして、もう一人の感心しているのがツヴァイ=ヴィリングさん。

 アインスさんとツヴァイさんは実の双子で、二人で連携しての戦闘を得意としているので、二人に修練場(しゅうれんじょう)で模擬戦の相手をしてもらっていたところだった。


「僕なんてまだまだですよ」


「なに謙遜(けんそん)してんだよ。もう俺ら二人じゃ敵わないほど強いんだ。お前の実力は第一部隊は愚か、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の中でももうトップクラスだろ。もっと鼻高になってもいいんだぜ?」


「いえ、僕なんてほんとに全然大したことないですって。それにもっと強くならないと魔王にはきっと勝てませんから……」


「きっとこの腰の低さが強さの秘訣(ひけつ)なんだよ。アイも少しは見習ったら?」


「うっせぇ。そんなことはわかってんだよ。お前こそ見習え」


 先輩二人はいつも通りの言い合いをしながら笑いあっていた。


「ロウ。慢心(まんしん)せずに頑張るのはいいことだけど、無理はしないようにね。無理して怪我なんてしたら元も子もないんだから」


「はい。気を付けます」


 ツヴァイ先輩からの心配を有難く受け取って、持ってきていた飲み物を手に取り、マフラータオルを肩にかけた。


「それじゃあ、お先に失礼します。お相手、ありがとうございました。またよろしくお願いします」


「おう、お疲れさん」


「おつかれ〜」


 日も暮れていい時間になったので、相手をしてくれた二人の先輩に頭を下げ、肩にかけたマフラータオルで流れる汗を拭いながら先に修練場(しゅうれんじょう)を後にした。

 第一部隊宿舎の施設内の廊下を沈んでいく夕陽を浴びながら帰っていると、横の廊下からルクス隊長が現れた。

 隊長の方も僕に気がついたようで手を軽くあげながらこちらに近づいてくる。


「よお、ロウ。訓練の帰りか?」


「はい。隊長がこんな時間にいるなんて珍しいですね」


 普段の隊長ならこの時間は隊長室にこもって仕事をしているので、こんな夕暮れ時に外を出歩いているのは少し珍しかった。


「ちょっと隊長の集まりで本部まで行っててな。朝っぱらから集められて、今さっき終わって帰ってきたところなんだ」


「それはお疲れ様です」


「あぁ、お互いにお疲れさん」


 隊長はそう言うと急に黙り込み、僕の方を見て何かを考えているような顔をして固まった。

 何かを話そうとして迷っているのだろうか。


「何か用でしたか?」


「あぁ、いや、用というほどのことはないんだが……」


 一度言い淀んだけれど、隊長は結局話すことにしたようで話を始めた。


「ロウ。今、戦況がどうなってるか把握してるな?」


「はい。ついこの間、クレーターの周囲まで領地を取り戻したんですよね?」


「そうだ。魔王と戦い始めて五十年。ようやくここまで来ることが出来た」


 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)は五十年の年月をかけて魔王に侵略された領土を着々と取り戻していき、とうとう五十年前に魔王が現れた時に発生した漆黒(しっこく)のドームによって作られた直径数十キロにも及ぶ巨大クレーターの手前まで領地を取り戻すことが出来た。


「少し前から魔王討伐(とうばつ)の話が本格化してきていてな。おそらく近いうちに作戦が固まる」


「それって――」


「最終決戦だ。もう、そう遠くない。準備はしておけ」


「はい!」


 あと少し……あともう少しで魔王を殺せる。

 お父さんとお母さんの(かたき)であり、リアンの(かたき)でもある魔王。

 この五十年にも渡る戦争を引き起こした全ての元凶であり、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)だけでなく、世界の敵でもある魔王。

 魔王がどんな姿をしているのか僕は知らない。

 どんな声なのかも、魔王にどれだけの実力があるのかも、そもそもなんでこんなことをしたのかも、僕は魔王のことについて何も知らない。

 けれど、僕は両親を失ってからこれまでの十五年間、その何も知らない相手を殺すことだけを考えて生きてきた。

 そして、それがもうすぐ手の届くところにいる。


「――とうとうここまで来たよ、リアン……」


 天国なんてものがあるのかは知らないけれど、リアンにどうしても伝えたくて、茜色に染まった空を見上げながらぽつりと呟いた。



 *



 隊長とそんな話をしてから一週間後の朝礼。


「みんな、おはよう」


 隊長はいつものように挨拶をして、隊士たちの前に立ち、全員が注目したのを確かめてから話し始める。


「今日は重大な報告、というか任務がある。何人かには少し話したから知っている者もいるだろうが、昨日の隊長会議で戦争終結に向けての重大な任務が決定した。次の任務は魔王の討伐(とうばつ)だ」


 隊長がそう言い放った瞬間、隊士たちがざわついた。


「我々、第一部隊は各々の能力に合わせ、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の第二から第十までの各隊にばらばらに配属されることになった。今から各々の配属先の隊を順に言っていく。聞き逃さないように」


 そう言うと、隊長は手に持っていた一枚の紙に視線を落とし、隊士一人一人の名前と配属先の隊を読み上げていった。

 そして、僕は『第十部隊』――戦闘力に秀でた隊士だけで構成されていて、常に最前線で魔物と戦い続けてきた対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の最高戦力が集う隊への配属が決定した。

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