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ロウの戦う理由

 俺とロウはそれからも訓練の日々に明け暮れ、あの武器屋の地下にある地下室もあれから定期的に何度も借りて互いに実力を高め合い、数多くの任務をこなしていった。

 俺たち二人は年齢的にはまだまだ若造の域を出ないけれど、次第に実力が組織内でも認められ、高難度の任務も任されるようになっていった。

 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に入ってから楽しいことが沢山あった。

 けれど、その何倍も辛いことが多かった。

 尊敬していた先輩の死を見ることになったり……、魔王を崇拝し、魔物と同じように村や街を潰して回っていた狂気的な宗教団体を潰す為に人間同士で争ったり……、仲間殺しをした裏切り者と対立したり……。

 新しい出会いも沢山あったけれど、それ以上の別れを幾つも経験した。

 俺たちは任務に揉まれながら怒涛の日々を過ごし、気が付けばあっという間に七年もの月日が流れていた。

 本当に色々なことがあった七年だった……。

 そして今、俺たち第一部隊の隊士たちは任務で外に出ている者を除いた全員が講堂に集められている。

 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)では毎日朝礼と夕礼が行われていて、そこで任務の伝達や情報共有をすることになっている。

 今は一日の終わりで外も既に暗くなっている夕礼の時間だ。


「アベル、エルマ、リアンの三人はこのあと残ってくれ。解散!」


 いつも通り夕礼を終えると、俺と先輩のアベルさんとエルマさんの二人に残るように言われる。

 他の隊士たちは解散と言われた通りにぞろぞろと講堂から出ていき、各々自室や自宅へと帰っていった。

 講堂にはルクス隊長と残れと言われた俺たちだけが残される。

 ルクス隊長は四人しかいなくなったのを確認してから口を開いた。


「残ってもらって悪いな。急で悪いが、お前たち三人には三日後に第三部隊の方に合流してもらいたい」


「第三ってことは偵察ですか?」


「そうだ。クレアさんから戦闘能力が高めの隊士を寄越せと言われたんでな。お前たちに行ってもらいたい」


 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の第三部隊は主に偵察や暗殺などの隠密任務を担っている隊なのでそんな隊に合流しろと言われた時点で任務内容の大まかな予想はつく。


「今回の偵察任務の場所は元々《ルボワクリフ》という小村があった場所だ。周囲が崖と森で囲まれている特殊な地形のせいで情報収集がなかなか難しい場所らしい。魔王に占領されてからもう五十年近く経っているからな。正直、どんな魔物がいて、何があるのかわからないし、地形も当時から変わってしまっているかもしれない。辺境の小さな村だったから情報が少ないんだ。どれほどの危険度なのかもはっきり言って不明だ」


「俺たちはいざという時の戦闘要因ってことですか?」


「さぁな。そこまでは聞いてないが、それも役割の一つだろう。まぁ、詳しい話は向こうで聞いてくれ。三人とも頼んだぞ」


「「「はい」」」



 *



「……」


 偵察任務を任された日の夜。

 俺はロウの部屋を訪ねていた。


「どうぞー!」


 部屋に入る前にドアを数回ノックすると、中からロウの声が聞こえてきたので中に入る。


「ロウ、ちょっといいか?」


「リアン?こんな時間に来るなんて珍しいね」


 部屋の中に入ると、ロウは室内で剣の素振りでもしていたのか、剣の刀身を(さや)に収め、壁に立て掛けていた。

 額には薄らと汗が(にじ)んでいる。

 きっと、こんな狭い宿舎の部屋で相変わらず素振りでもしていたんだろう。


「なにか用事?」

 

「これから少しだけ外に出ないか?」


「外って、もうとっくに外出禁止の時間だよ?」


「外出許可ならさっき隊長に言って二人分特別にもらってきた。ちょっと散歩に付き合ってくれよ」


 普段なら日暮れと共に施設外への外出は禁止されているのだが、今回は特別に外出許可をもらって俺たちは外に出た。

 対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に入ってから約七年。

 俺たちはずっと対魔王十一魔導部隊が管理している宿舎の部屋に住んでいるので、こうして夜に外を出歩くのは久々だった。

 夜の《アクアガルド》の街並みは街灯の橙色に包まれていて、飲み屋がある通りは相変わらずガヤガヤと酒で陽気になっている人々で溢れていた。

 飲み屋の通りからは少し外れ、《アクアガルド》の中心から八方に伸びている八大河川の一つに沿って歩いていく。

 この道は街灯も疎らで、この時間はあまり人が通らない。

 虫の音と水の流れる音以外何も聞こえないほど静まり返っていて、空を見上げると、綺麗な満月が輝いていた。

 心做しかいつもの月よりも大きく見える。


「月、綺麗だな……」


「なに?告白でもする気なの?悪いけど、そういう趣味はないから流石の親友(リアン)でも無理だよ?」


「別にそういう意味じゃねぇよ。それに俺も男には興味ねぇ」


「冗談だよ。リアンはサラのことが好きだもんね?」


「うるせぇ……。うるせぇし、うぜぇ……」


「ハハハっ」


 ポツリと呟いた一言からそんな冗談を言い合いながら、特に目的地も決めずにぶらぶらと歩いていく。


「それで?なんの用なの?わざわざ外出許可まで取って、散歩のためだけに呼んだわけじゃないんでしょ?」


 少ししたところでロウの方からタイミングを見て、話を切りだしてきた。


「用というほどの用はない。本当にこうして少し話をしたかっただけだ」


「なにそれ。変なの」


「たまにはいいだろ?」


「まぁ、いいけどさー」





「ロウはさ。まだ魔王を倒したいと思ってるか?」


「……?どういう意味?」


「別に。そのままの意味だ。他意はない」


「もちろん倒したいに決まってるよ。そうじゃなきゃ、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)にそもそも入ってない」


「それは、……親を殺されたからか?」


 俺とロウは二人とも間接的にではあるが、魔王のせいで家族を失っている。

 聞きづらいことなのでこれまでこうしてロウの過去にはまともに触れてはこなかったが、どうしても聞いておきたかったので、このタイミングで踏み込んだ。


「確かに初めはそうだったよ」


「初めは?」


「きっかけはリアンの言う通り復讐だった。お父さんとお母さんを殺されて、その元凶の魔王を酷く恨んだ。怒りと憎しみで体を動かし、復讐の為だけにそれまで握ったこともない剣を手に取って、魔王を倒す為にこれまで文字通り血の(にじ)むような努力をしてきた。……だけど、今は少し違うよ」


「今、僕が魔王を倒したいのはね。この戦争をとにかく終わらせたいからだよ。僕みたいに家族を殺されて、せっかく運良く命が助かったのに復讐なんかに走ってそれから先の人生を無駄にしてしまう。そんな人を少しでも減らしたい。少なくともこの戦争が終われば、こんなバカは僕で終わりに出来ると思うんだ」


「そうか……」


 ロウはこれまでの自分の人生を振り返っているのか、過去を見ている目で自虐を(はら)んだ複雑な笑顔を浮かべていた。

 ロウは決して馬鹿じゃない。

 自分のしていることがどういうことなのかを客観的にも理解している。

 けれど、理解したその上で決意し、これまで何年も歩みを続けたからこそ、今のロウはここにいる。


「……ロウ。これから先、何があっても魔王を必ず倒せよ?」


「そんなの当たり前でしょ。たとえ何年かかったとしても僕たち二人で、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)のみんなで絶対に魔王を倒そう」


「……あぁ」


 俺とロウは魔王を倒す約束の意味を込めて、もう何度目かわからない拳を合わせた。


「もうすぐ暑い季節も終わるね。ちょっと肌寒くなってきた」


 ロウはそう言いながら、少し寒そうに自分の二の腕を摩る。


「そろそろ戻らない?」


「そうだな。付き合ってもらって悪い」


 もうすぐ暖かかった季節が終わる。

 これからやってくるのは俺が嫌いな冷たく、寂しい季節だ。

 ロウは寒そうにしながら先に来た道を引き返して歩いていった。

 その場に立ち尽くし、ロウの背中を見て思う。


「……それが聞けてよかったよ」


 これで俺はお前のことをまだ信じていられる……。


「リアン、何してるの?早く来なよ」


「あぁ、今行く」


 俺がついてきていないことに気づいたロウが俺を呼んだので、駆け足で先を歩くロウに追い付き、そのままの勢いで追い越していく。


「宿舎の門まで競争だ。負けた方は明日の夕飯のメイン抜きな」


「ちょ、いきなり!?」


 こうして俺たちはお互いにダッシュで宿舎へと帰っていった。

 余談ではあるけれど、門までの競走はロウが勝ち、負けた俺は次の日の夕飯のメインだったハンバーグをロウにあげることになった……。

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