武器屋の地下室
俺がロウとサラとモナ姉を連れて向かったのは宿から東に少し行ったところにある一軒の武器屋。
半年前に訪れた時と同じく、店長が入口に掛かっている壁掛けプレートをちょうど裏返そうとしているところだった。
声をかける前に近づく俺たちに気がついた店長は苦虫を噛み潰したかのような心底嫌そうな顔をしていた。
「どうも。お久しぶりです」
「お前さんか……」
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ」
「……例のヤツか?」
「はい」
「後ろに連れてるヤツらは?」
店長は俺の後ろにいる三人を一瞥して訊いてくる。
「俺の家族です」
「そいつらもか?あまり知られたくはないんだがな……」
「約束は守ります。絶対に他言はさせないので」
「分かった……。もういい、勝手にしろ」
店長はヤケ半分呆れ半分といった感じで渋々受け入れ、店へと入っていった。
俺たちも店長の後に続いて店に入っていく。
「メルー!」
店長が店に入るなり大きな声で呼ぶと、奥からガサゴソと物音が聞こえてくる。
「なにー?おじいちゃ――」
その声と共に店の奥からサラと同い年くらいの少女が現れた。
耳にはピアスをいくつもつけていて、髪の毛を金髪に染めているのか、根元の方は地毛である黒髪が見えてきている。
俺たちを見るなり、人前でおじいちゃんと呼ぶのが恥ずかしかったのか、途中で言うのを止めていた。
「孫のメルウィンだ」
俺たちに孫娘の少女を紹介してくれる。
「お客さん……もう閉店じゃないの?」
「コイツらは客じゃない。前に話したヤツだ。閉め作業はやっておくから案内してやってくれ」
「……」
メルさんは俺たちの方を警戒するかのように疑いの籠った目で見てくる。
「……わかった。こっち」
そう言うと、メルさんは背中を向けて、先程出てきた店の奥へと入っていった。
店長にも促され、俺たちも後に続いて店の奥へと入っていくと、メルさんは床にある取っ手を掴んで床の一部を持ち上げていた。
床下には階段が続いていて、先が暗く、何も見えない。
「はい」
メルさんは近くに置いてあった二つのランタンに明かりを灯し、片方をこちらに渡してくれる。
「ついてきて」
そう言うと、メルさんはランタンで真っ暗な階段を灯しながら先に下っていった。
後に続いて階段を下ろうとすると、服の袖を後ろに軽く引っ張られる。
振り返ると、サラが心配そうな顔をしてこちらを見ていた。
「ね、ねえ……大丈夫、なの?」
サラの後ろにいるロウとモナ姉も同じことを言いたそうな顔をしていた。
「怖いものじゃないからそんなに心配しなくてもいい。行くぞ」
ランタンを受け取った俺が一番初めに入ると、俺の横にサラが並び、モナ姉とロウが後ろに並んでついてくる形で階段を下っていく。
階段は蛇行することもなくずっと直線だが、なかなかに長い。
「ねぇ、ちょっと」
前を歩いていたメルさんが俺の方を見て、人差し指を曲げてこっちに来るようにジェスチャーしてきた。
後ろを歩いていたロウにランタンを預けて、メルさんの横に並ぶと、後ろの三人に聞こえない大きさの声で階段を下りながらこちらを見ることもなく、俺に話しかけてくる。
「アンタ?店長脅したのって」
「まぁ、……はい」
確かにその通りではあるけれど、脅したなどと随分と聞こえが悪くなっている。
どうやら店長的には俺に地下室を貸すことになったのが相当気に食わないらしい。
「錬金術、使えるんだって?」
「まぁ」
「店長が相当の腕だって言ってた。……アンタ、何者?」
「店長から聞きませんでした?」
「……聞いた。弟子ってなに?」
「別に。そのままの意味ですよ」
「……真面目に話す気はないんだね」
「一応、正直に答えてはいるんですけどね」
後ろ髪を掻きながら、飄々とした態度で会話をトントン拍子で進めていった。
「店長が許容してるからアンタが何者かはこの際いいけど、一つだけ忠告しとく。もし、アタシらに危害を加えるつもりなら絶対に許さないから」
声のトーンが低くなり、鋭い目つきで睨みつけられる。
許さないという言葉通り、何かする気なら殺すという殺意の籠った目だ。
さすが孫娘。
店長とそっくりだなと思った。
「そんな怖い顔しなくても大丈夫ですよ。地下室を貸してもらう以外には本当に何もしないので安心してください」
「ならいい。あと、そのメルさんって呼び方やめて」
「それは無理ですね」
そんなことを話していると階段の先に光が見えてきた。
光が少しずつ近づき、真っ暗で二人並んで通るのがギリギリの狭い階段から突然広い空間に出る。
一瞬、光に目が眩むけれど、少しすると次第に全体が見えてきた。
階段の先にあるこの空間は広さ十ヘクタール、高さ二十メートルを誇る巨大な地下室。
壁と天井は晄石という光を放つ特殊な灰色の石で覆われていて地下室でありながら外にいるみたいに明るい。
地面には様々な色の砂が混ざったような色の土が引かれていて、所々にこんもりと小さな山が出来ている。
「な、なにここ……」
「あの人が隠し持ってる地下室だ。ここなら、気兼ねなく勝負できるだろ」
「これって違法建築なんじゃ……」
「だから秘密だって言っただろ?特別に貸してもらうんだ。話さないでやってくれ」
「わかったよ」
「サラとモナ姉はあの人の近くで見ててくれ」
壁にもたれているメルさんに視線を向ける。
「……なに?」
「すみませんが、何か飛んでいったりするかもしれないので、二人を守ってあげてくれませんか?」
「何でアタシが……」
「お願いします」
「はぁ、わかった……。壁くらいは作ってあげるよ……」
そう言うと、メルさんは壁に立て掛けてあった木の棒を手に取った。
「そこの二人、こっち来て」
サラとモナ姉に対して手招きをして、近くに来るように言い、メルさんは手に取った木の棒で地面にスラスラと錬成陣を描いていく。
「そこから動かないで」
サラとモナ姉に一言そう忠告すると、描いた錬成陣の上に手を置いて、錬成陣に魔素を流し込む。
地面に描かれた錬成陣は発光し、次の瞬間、三人の真下の地面が動き出した。
「きゃっ!」
「なに!?」
突然のことにサラとモナ姉は共に抱き合うような体勢になり、ほんの数秒で高さ七メートル程はある見張り台のようなものが出来上がった。
「錬金術……。もしかして、あの人に教わったの?」
「さぁな。それよりルール確認をしよう」
ロウの質問を適当に流し、後ろ歩きでロウから距離を取りながら勝負のルールについて話を移す。
「ルールはいつも通りで、魔術はなんでもあり。道具もなんでもありで、降参するか身動きの取れなくなった方の負け。それでいいな?」
「うん。いいよ」
ロウは話しながら軽くジャンプをしたり、屈伸をしたりして、準備体操を始めた。
「そういえば、リアンが錬金術を使うようになってから戦うのってこれが初めてだよね」
「そうだな」
「これで模擬戦するのって何回目だったっけ?」
「今回で一〇四回目だ」
「もうそんなになるのかぁ」
ロウは体をほぐしながらこれまでの勝負の数々を懐かしんでいるようだった。
「ロウ、手加減なしの本気で頼む。間違っても手なんか抜くなよ?」
「わかってるよ。僕がリアンとの勝負で手を抜いたことなんて、これまで一度もないでしょ?」
「それもそうだな」
準備体操が終わったようで、ロウは持ってきていた木剣を袋から取り出していたので、俺は地面に落ちていた手の平サイズの石を拾い上げる。
「いつも通り、石を上に投げて落ちた瞬間にスタートでいいか?」
「それでいいよ」
「準備は?」
「オーケー」
「じゃあ、行くぞ」
俺は勢いよく石を上空へと放り投げた。




