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二日目の虎

 次の日の朝。

 朝食を食べに行くのと街の観光も兼ねて、露店などが立ち並んでいて《アクアガルド》の中で最も(にぎ)わっている通りに行くことになった。


「おはよ」


「おはよう、モナ姉」


「おはよー、二人とも」


 朝起きて、集合場所にしていた宿前に行くと、モナ姉が先に来て待っていた。

 けれど、モナ姉一人だけでサラの姿がない。


「サラは?」


「なんか頭が痛いんだって。風邪かなぁ?」


 慣れない酒を飲んで、次の日に頭痛。

 十中八九、二日酔いだろう。


「風邪!?()てなくていいの?」


「そこまで大したことないから遊んできてって部屋追い出されちゃった。二人が行っても同じだろうから後で果物でも買って帰るつもり」


「それならいいけど……。心配だし、なるべく早く帰るようにしようか」


「……そうだな」


 調子の悪いサラ抜きで俺とロウとモナ姉の三人で行くことになった。

 露店が立ち並んでいる通りは対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の本部の近くにあり、宿から歩いて僅か十分程度で到着した。


「すまん。ちょっとだけ本部に用があるから二人で少しの間、回っててくれないか?」


「わかった。じゃあ、二人でこの辺しばらく見て回ってるよ」


「ああ、悪いな。気にせず先に何か食べててくれ。なるべくすぐ戻る」


 俺は二人にそう言い残して、近くにある対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の本部へと向かった。



 *



 十五分後。

 俺は先ほど出発した宿《金の羊》へと戻ってきていた。

 一階のカフェでマスターに水を貰い、ドアをノックして入ったのは俺の部屋ではなく、その隣の部屋。


「おーい、酔っ払い。大丈夫か?」


「んぅ……あれ?リア?」


 部屋に入ると、ベッドで眠らずに寝転がっていたサラが目を擦りながら上体を起こした。


「なんでいるの?お姉ちゃんたちは?」


「少し抜けてきた。ほら、頭痛薬だ」


 そう言って、持ってきた頭痛薬のカプセルとコップに入った水を手渡した。


「え?どうしたの、この薬」


「偶然持ってた。少しは楽になるから飲め」


 頭痛薬を偶然持っていた、というのは嘘だ。

 俺は対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の本部に行き、医務室から頭が痛いと言って頭痛薬をもらってここに戻って来た。

 サラがこうなったのはしっかり見ていなかった俺にも責任はある。

 これくらいのことはしてやるべきだろう。


「ごめん。わざわざありがと。なんか朝起きたら頭痛くて……」


「もしかして、昨日のこと覚えてないのか?」


「それがあんまり覚えてないんだよね。下のお店でリアと話してたところまでは覚えてるんだけど……」


 そこまで言うと、何かに気がついたような顔をして、こちらをじっと見つめてきた。

 何故か次第に頬が赤くなっていく。


「なんだ?」


「リア、わたしになにもしてない……よね?」


「してるわけないだろ……。バカなこと言ってないで、おとなしく寝てろ」


 コップを預かり、サラの上に毛布をかけてやる。

 サラは「してるわけないって、酷くない……?」などとブツブツと(つぶや)いて不満そうにしながらも大人しく寝転がった。


「じゃあ、俺は二人のところに戻るから。そのまま安静にしてろよ?」


「……リア」


 待たせてしまっている二人の元に戻ろうとすると、服の(そで)を引っ張られた。


「なんだ?」


「その……えっと……」


「なんだ?言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。らしくもない」


「……その……もうちょっとだけここにいてくれない?」


 サラは不安そうな上目遣(うわめづか)いでこちらを見つめてくる。


「……わかった」


 俺は戻るのをやめて、近くにあった木製の丸椅子をベッドの横に移動させて腰掛けた。

 今日のサラはやけに甘えてくる。

 病気の時などに気が弱くなって、人が恋しくなったりするのと同じようなものだろうと勝手に納得する。


「いっそのこと添い寝でもしてやろうか?」


「そ、そこまではしなくていい!ッー……うぅ、頭が……」


 冗談交じりにそんなことを言うと、驚いたようにサラはベッドから再び上体を起こした。

 大きな声を出して頭に響いたのか、頭を抑えて痛そうにしている。


「だから、安静にしてろって言っただろ」


「リアのせいじゃん……」


 また毛布をかけて寝かせてやった。


「寝るまではここにいてやるから安心して寝ろ」


「……ねぇ」


「今度はなんだ?」


「手……握って?」


 サラの手が毛布の中から出てきて、俺に差し出される。

 俺はその手を両手で上から包むようにして握った。


「……これでいいか?」


「うん……」


 窓越しに聞こえてくる人の声がこの空間の静けさをさらに強調しているように思えた。

 この部屋には俺とサラの二人だけ。

 俺はサラの手を握って、眠るのを何も話さずに待っている。

 お互い無言でいるけれど、居心地は悪くない。

 むしろ、落ち着いていて、この時間を心地いいとすら感じている自分がいた。


「……なんか、こうしてると昔みたいだね」


「……そうだな」


 サラのその言葉に記憶の中にある昔を思い出す。

 俺がまだ十歳で、サラがまだ八歳。

 サラが山奥にあるあの家にやって来たばかりの頃であり、俺がまだ何も知らなかった頃のことだ。


「サラは、あの頃に比べたらよく話すようになったな」


「昔の方がよかった?」


「……いいや、今の方がいい。文句でもなんでも喋って、明るくしてくれてた方が安心する。ずっとそのままでいてくれ」


「……そっか。ありがと」


 サラはお礼を言いながら、はにかんだ照れ笑いを浮かべていた。

 悪口だろうと皮肉だろうと話してくれていた方が昔の何も話してくれなかったあの頃よりもずっといい。

 サラのあんな姿は出来ればもう二度と見たくない。


「いい加減話してないで、寝てくれ。あまり遅くなると、二人が何かあったのか心配するからな」


「うん。本当にありがとね、リア」


「どういたしまして」


 俺はそのままサラの手を握りながら、昔のようにサラが眠るまで静かに待ち続けた。



 *



 慣れない長旅で疲れていたのか、それとも飲んだ薬の影響か、サラは五分も経たないうちに眠ってしまった。


「……そろそろ戻るか」


 起こさないようにゆっくりと握っていたサラの手を離す。

 サラの顔を見ると、ベッドでスヤスヤと幸せそうな顔を浮かべて眠っている。


「……」


 サラの顔にかかった髪をわけ、優しく(ほお)に触れる。

 サラがずっとこうしていられるような、そんな世界に――。


「おやすみ、サラ」


 サラの額に軽く口付けをして、俺は部屋を出て、ロウとモナ姉の元に早足で向かった。



 *



 リアンが部屋を出ていった数秒後。


「ッ〜〜〜〜〜〜!?!?」


 自分のお願いで残ってもらったけれど、リアンを早く行かせてあげるために寝たふりをしていたサランは真っ赤になった顔を両手で(おお)い、声にならない声をあげてベッドの上で身悶(みもだ)えていた。

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