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特例の覚悟

 

「で……、なんでこんなことになってるの?」


「昨日、説明しただろ?」


「いや、意味わかんないよ!?なんで僕らが第一部隊にいきなり合流することになってるの!?」


 次の日の朝、俺とロウの二人はルクス隊長に言われた通り、第一部隊の隊舎にやってきていた。

 今は隊舎の中庭で待っているように言われたので、ルクス隊長がやってくるのを中庭で待っている。


「だから、昨日説明しただろって」


「だから、その説明が昨日から訳わからないんだよ!」


 あの後、宿《金の羊》の部屋に戻り、ロウになんの話だったのか聞かれたので、嘘も織り交ぜながらロウと俺の二人が第一部隊に明日から合流することになったことを伝えた。

 けれど、いきなりそんな事実を()み込めるはずもなく、こうしてルクス隊長に言われた通り、第一部隊の隊舎にやって来たのはいいが、ロウは未だに半信半疑で混乱している。


「別になんでもいいじゃないか。試験で実力を認められたってことだろ?それにこの方が色々と都合がいい」


「いや、それはそうなんだけどさー……!」


 ロウがこの対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に入ったのは実の両親が死んだ元凶である魔王を殺す為、つまりは復讐だ。

 魔王を殺すには実践を積み、腕を上げて、魔物に占領された領地を取り戻し、魔王の元に行かなければならない。

 ロウとしても早々に隊に配属された方が嬉しいはずだ。


「よーし、二人とも揃ってるな?」


 言い合いをしていると、ルクス隊長が中庭にやってきた。

 後ろには浅緑の鮮やかな髪をポニーテールにしている見知らぬ女性を引き連れている。


「じゃあ、まずは自己紹介からだ。改めて俺は第一部隊隊長のルクス=エドワーズ。こっちは――」


「第一部隊所属のリュシカ=ヴィンチェスターです。よろしく」


「リアン=リワードです」


「ロウ=メディウムです。よろしくお願いします」


 リュシカさんが握手を求めてきたので、俺とロウは順に握手に応じながら挨拶をしていった。

 表情が引き締まっていて、姿勢がいいことも相まって、しっかりしていそうな人だと思った。


「まずは、そうだな……」


「あの、すみません」


 ルクス隊長が何をするか顎に手を当てて考えていると、ロウが手を挙げた。


「その前にひとついいですか?」


「なんだ?」


「なんで僕らをいきなり第一部隊に入れたんですか?」


「ん?リアンから聞かなかったのか?」


「聞きました。ですが、納得はいっていません」


「……納得、ねぇ……」


 ルクス隊長はそう言いながら、横目でチラリと俺の方を見た。

 ルクス隊長も俺がこの一連の流れを素直にロウに伝えたとは思っていないはずだ。

 俺の推薦によって特別に第一部隊に入れた事実をそのままロウに伝えれば、ロウのプライドは少なからず傷つく。

 適当な嘘をついて第一部隊に入ることになった理由を説明したのだとルクス隊長も考えるはずだ。

 この視線はきっとロウを推薦したなら納得させるまでしっかりやれよ、とでも言いたいのだろう。

 面倒くさそうに短めのため息を少しついてから話し始める。

 どうやら尻拭(しりぬぐ)いはしてくれるらしい。


「悪いけど、誰もキミの納得なんて求めていないよ。キミが納得しようとしまいと、こちら側は昨日の試験を見てキミたち二人にはこの隊に入る実力があると評価した。もう決まったことだし、キミがその評価に納得しなかったからといって何かが変わるわけじゃない。そうだろ?」


「ですが、僕らはまだ対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)のことを何も知りません。他の方の足を引っ張ることになる可能性が高いと思います」


「初めから上手くやれる奴なんてそういないよ。どんな奴だって最初は足を引っ張るものだ。キミら二人を特例でこの隊に入れたのは半年間のカリキュラムを受ける必要はないとキミらの能力を認めているだけであって、別に今日からすぐに組織の役に立てと言っているわけじゃない。今日から一年以内に組織の役に立つようになればそれで十分だよ。それにキミらがその期待に応えられなければ、見込み違いだったと再判断して下ろすだけのことだし、俺たち対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の職場は戦場だ。最悪の場合、どうなるかは言わなくても分かるな?」


 戦場での最悪の場合。

 それはおそらく命を落とすことだろう。

 ルクス隊長の言うように対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)が活躍するのは戦場であり、戦場に容赦はない。

 新人であろうとなかろうと実力がなければ死ぬだけだ。


「ロウ。これ以上の説明は必要か?」


「……いえ、大丈夫です。お手数おかけしてすいませんでした」


 ルクス隊長のその発言にロウはそれ以上何も言えなくなった。


「じゃあ、二人とも今現在使える魔術を教えてもらえるか?キミらの隊長として何が出来るのかを把握しておきたい」


 俺とロウはお互いに目を合わせると、ロウから先に口を開いた。


「僕は入隊試験の時にも使った強化魔術しか使えません。細かく言うと、【身体部分強化(エンハンス)】とそれを全身に同時に行う【全身強化(フルエンハンス)】だけです」


 ロウがそう言うと、リュシカさんは手に持っていたバインダーに挟まれている用紙に何かを書き込んでいった。


「リアンは?錬金術以外になにか使えるか?」


「錬金術……?」


「ロウと違って【全身強化(フルエンハンス)】までは出来ませんが、【身体部分強化(エンハンス)】ならできます。あとは錬金術の時に使っている【操光縄(レインライト)】くらいです」


「そうか」


 そう言うと、ロウのときと同じくバインダーに挟まれている用紙にリュシカさんが何かを書き込んでいく。

 リュシカさんが書き終えるのを待っていると、ロウに後ろから背中をつつかれた。


「ねぇ、リアン。錬金術ってなに?それに【操光縄(レインライト)】?っていうのも。いつの間にそんなの出来るようになったの?」


「そういえば、ロウにはまだ見せてなかったな」


 俺は【操光縄(レインライト)】で地面の石畳に錬成陣を描き、ロウに石槍を錬成して見せた。

 入隊試験で既に錬金術を見たことのあるルクス隊長は顔色を変えずに見ていたが、初めて見るロウとリュシカさんは目を見開いて驚いているようだった。


「これが【操光縄(レインライト)】と錬金術。実はずっと前から内緒で練習してたんだ」


「す、凄いよ!リアン!なんで隠してたの?!言ってくれればよかったのに!」


「ロウを驚かせたかったんだよ」


 初めて見た錬成にロウは興奮状態で詰め寄ってきた。

 苦笑いを浮かべながら落ち着くようにロウを宥めていると、「あー、盛り上がってるところ悪いが――」と言いずらそうにルクス隊長が口を挟む。


「リアン。石畳は元に戻しとけよ?」


「わかってますよ」


 先ほど錬成した石槍に再び【操光縄(レインライト)】で錬成陣を描き、錬金術を行使すると石槍が元の石畳へと戻った。


「そんなことも出来るのか……。便利なもんだな、まったく」


 ルクス隊長が関心と呆れを孕んだ言葉を漏らす。


「じゃあ、あとはこの隊舎にある施設を適当に見て回ってほしい。案内やその他諸々はリュシカに全て頼んであるからあとのことはリュシカから色々と教えて貰ってくれ。俺はこれから用があるから今日はこれで」


 そう言うと、ルクス隊長はリュシカさんからバインダーを受け取って、俺とロウとリュシカさんの三人を残して戻って行った。


「「……」」


「……」


 残された俺たち三人の間に謎の静寂(せいじゃく)が生まれる。

 直ぐにリュシカさんが案内してくれるのかと思いきや、リュシカさんは俺たち二人の方を黙って見ているだけで動こうとしなかった。


「あの……見て回らないんですか?」


「……その前に私からも少しだけいいですか?」


 ロウが気まずそうに尋ねると、リュシカさんはそう言って俺たちに向き直った。


「入隊試験に受かったあと、普通なら最低半年は実力をつけるためにカリキュラムに沿って訓練を受けることになっているのは知っていますよね?」


「はい。名前は少し覚えてないんですけど、南の方にある街の寮に入るんですよね?」


「そうです。この《アクアガルド》からしばらく南に行った所にある《デゼルトハーゲン》という街の対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)が管理している寮に最低半年は入ることになっています。そこでは半年に一度、実力を測るテストがあってそのテストで実力が十分だと判断されれば、正式に隊に所属できるようになります。ですが、中には何年も実力が認められず、入隊試験をくぐり抜けたにも関わらず隊に入れない人もいます。わたしは一年かけて隊に所属できるようになりましたが、その一年で厳しい訓練に耐えられなくなって辞めていった人たちを何人も見てきました……」


 リュシカさんは過去の出来事を思い返しながら語っていく。


「先ほど納得していないと言っていましたが、あなたがた二人はその辛い訓練期間を免除されるほど実力を認められ、評価され、期待されているんです。そのことだけはどうか忘れないでください」


 過去を懐かしんでいるようにも、悲しんでいるようにも、静かに怒っているようにも取れる表情で(さと)すようにリュシカさんは言った。


「……」


 俺は何も言わず、前にいるロウに視線を向けると、


「すいませんでした」


 ロウは先程の自身の発言に対して頭を下げて謝罪をしていた。


「他の方の気持ちを考えず、生意気なことを言いました。僕は新人でまだ何も知りませんが、これから対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)から受けた期待に応えられるよう頑張るので、これからよろしくお願いします」


 きっとロウはリュシカさんの今の話を聞いて、先程の自分の発言がいかに身勝手なものだったかを自覚したのだろう。

 リュシカさんからすれば、先程のロウの発言に対して怒りを覚えたかもしれない。

 自分たちは何年もかけて実力が認められ、この隊にいるのにも関わらず、入隊試験を受けたばかりの十七歳の新人が納得できないと言って、実力を認められたことに対して意義を唱える。

 その行為はこれまで《対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)》に入隊しようと入隊試験を受けた人たちや《デゼルトハーゲン》での訓練を受けてきたリュシカさんたちに対して失礼だ。

 そう思ったからロウはいま頭を下げてリュシカさんに謝っている。

 ロウのその姿にリュシカさんは少し驚いた様子だった。


「頭をあげてください」


 リュシカさんのその言葉でロウはゆっくりと頭を上げる。


「べつに謝ってほしかったわけじゃないんです。なんだか説教臭くなってしまって、こちらこそ今のは少し大人げなかったですね……。すいません」


 リュシカさんもロウに対して丁寧に頭を下げて謝罪をした。


「改めてこちらからもこれからよろしくお願いします」


 リュシカさんから手を差し出されたので、ロウが代表して「よろしくお願いします」と言いながらその手を握り返した。


「ロウ=メディウムさん。リアン=リワードさん」


 俺たちの名前を呼びながら目を合わせる。


「ようこそ、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)・第一部隊へ」


 リュシカさんはそう言って、硬かった表情を崩し、笑顔で俺たち二人を歓迎してくれた。


 それから俺とロウはリュシカさんのあとに続いて、隊舎の中へと入り、これから暮らすことになる寮の部屋や修練場、食堂など第一部隊の隊舎の中を隅々まで見て回った。

今回で1-1が終わり、一旦初めの一区切りになります。

このお話を読んでくださっている方々、いつもありがとうございます。

なるべく早く次の話をこれからも投稿していきますので、できればこれからも読み続けてくれると嬉しいです。


これからも『籠の中の人、籠の外の蒼い鳥』を何卒よろしくお願い致します。

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