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「合格者は以上だ」


 試験当日の夕暮れ時。

 受験者全員の試験が終わり、黒獅子(ネグロリオン)と戦った闘技場に受験者全員が再び集められ、合格者の名前がアルトさんの口から一人ずつ発表された。

 数え切れないほどいた受験者のうち、名前を呼ばれたのはたったの三十二人。

 その中には俺とロウの名前も入っていて、俺たち二人は入隊試験に合格することが出来た。


「合格した者は明日から対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)が管理している寮に最低でも半年間は入ってもらうことになる。各々準備して、明日のアクアガルドの北にある本部までやって来るように。不合格だった者も今回はダメだったが、自身を鍛え直し、また半年後に試験を受けてくれることを対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)としては願う。ぜひ頑張ってもらいたい」


 受験者全員に聞こえるように声を張り上げて、アルトさんが定型的な締めの言葉を述べていった。


「これで解散とするが、その前に――リアン=リワードはいるか?」


 名前を呼ばれたので、軽く手を上げる。


「お前には話があるからこのあと少し残ってくれ。ほかの者はこれにて解散」


 アルトさんの解散の言葉で受験者たちは各々合格したことを喜んだり、不合格だったことを(なげ)きながらぞろぞろと闘技場を出ていった。


「話ってなにかな?」


「さぁな。まぁ、でも、とりあえず合格はしたんだし、試験を受ける前に書いた個人情報に記載ミスがあったからその確認とかじゃないか?多分大したことじゃないだろ」


「それじゃあ、先に戻ってるね。あとでなんの話だったのか教えてよ?」


「ああ」


 ロウは最後にそう言い残して、他の受験者たちと共に闘技場を出て、帰っていった。

 一分も経たないうちに広い闘技場に俺とアルトさんの二人だけが取り残される。


「それで話ってなんですか?」


「話は俺からじゃねぇよ。あの人らからだ」


 そう言ってアルトさんは背後にある通路に目を向けた。

 暗い通路の奥から現れたのは十人以上の人。

 ぞろぞろと歩いて出てきたその人たちの顔には見覚えがあった。

 上の観客席で試験を見ていた各隊の代表者たちだ。

 その中には先ほど試験中にわざわざ話しかけに来た第一部隊のルクス隊長の姿もある。

 各隊の代表者たちは俺の正面に横並びになり、勢揃いした。

 全員の視線が俺の方を向き、威圧感が凄い。

 代表者たちの一人が一歩前に出てくる。


「第二部隊の隊長を務めているレヴァン=ハッシュバルトだ。残ってもらってすまないが、我々から少し話がある。言わなくてもわかっているだろうが、先程のキミの試験のことだ。これまで数多くの受験者を見てきたが、リアン=リワード。キミはその中でも群を抜いているな。試験で相手にしてもらった黒獅子(ネグロリオン)。あれを一撃で殺せる者は対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の中でもそう多くない。その歳でその域にまで達しているのは驚くべきことだ」


「それはどうも」


対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)では通常、試験合格者はすぐに実践には出さず、最低でも半年間は寮に入ってもらい、こちらの用意したカリキュラムを通して、実力を身につけることに従事させている。そして、戦場でも十分に通用する実力を身につけたとこちらが判断してからようやく隊に属させ、実践に出す方針をとっている。だが、リアン=リワード。キミは特例だ。第一部隊部隊隊長・ルクス=エドワーズからの申し出もあり、キミには対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)に貢献出来る実力が十二分にあると判断し、その半年を免除することに決定した。早速だが、明日から第一部隊に合流してもらいたい」


「……」


「おい、お前聞いているのか?返事をしろ」


 レヴァン隊長の後ろに並んでいた一人の男が返事をせずに無言でいる俺に声を上げた。


「すみませんが、それに従うには一つ条件を付けさせてください」


「条件だと……。貴様、何を言って――!」


「よい」


 前に出ようとした男をレヴァン隊長が片手を出して制止した。

 男はそれで冷静になったようで頭を軽く下げ、後ろに引っ込む。


「言ってみろ」


「今回の試験で合格したロウ=メディウムという男を俺と同じ特例で第一部隊に入れてください」


「ロウ=メディウム……。おい、どいつだ?」


 レヴァン隊長は顔だけを後ろに向け、先程声を上げた男と同じように後ろに並んでいる紙の資料を持った眼鏡をかけている女性に訊いた。

 女性はパラパラと紙の資料を数枚めくってから答える。


「強化魔術主体の片手剣で、魔獣の被り物を被っていたローガン=アングレウスと共に試験で黒獅子(ネグロリオン)を水に落としていた受験者です」


「あぁ、アイツか……」


 黒獅子(ネグロリオン)を倒していることと、パートナーだった人が特徴的な被り物をしていたこともあって、ロウがどの受験者だったのか直ぐに思い出せたようだった。


「友人か?」


「いいえ。家族です」


「そうか……」


 レヴァン隊長は顎に手を当てて考え、少し間を置いたあとに口を開く。


「ルクス=エドワーズ。お前の隊の話だ。お前の判断に任せる」


「はい」


 レヴァン隊長に名前を呼ばれ、先程話をしたルクス隊長が返事をして一歩前に出た。


「リアン=リワード。レヴァン隊長が言ったように俺がキミを第一部隊に入れるように推薦させてもらった。先程も話したようにそれはキミの実力なら直ぐにでも実践に出しても問題ない。むしろ即戦力になると判断したからだ。そして、俺のロウ=メディウムに対する評価だが、確かに筋はよかった。状況判断も速く、連携も出来て、実力もある。才能があった上でよく鍛えているのが今回の戦いを見ただけでもよくわかった。キミを抜けば、今回の受験者の中ではトップの実力だと言ってもいい。だがな、俺にはまだ早いように思えた。あの男はこれから間違いなく伸びる。じっくり半年間実力を積み上げさせてからでもいいんじゃないのか?」


「ダメです。俺と同じ特例で第一部隊に入れてください。この条件を呑んでいただけないのなら、俺は対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)への入隊を辞退します」


「なっ――!」


 レヴァン隊長の後ろにいる男が僅かに声を上げた。

 けれど、驚いているのはその男だけではなく、声こそ出してはいないけれど、何人かは目を見開いていた。


「なぜそこまでロウに(こだわ)る。身内だからか?」


「違います」


「なら、なんでだ?」


「アイツが……ロウ=メディウムが魔王を倒す男だからです」


「……」


「……」


 お互いに何も言わず、視線だけが交差する。

 ルクス隊長はまるで見定めるかのようにしばらく俺から視線を外そうとせず、俺も視線を外そうとしなかった。


「……はぁ、わかった。いいだろう。その条件、()もう」


 ルクス隊長は諦めたように息を吐いて、俺から視線を外し、仕方がなさそうに後ろ髪を掻いてニヤケながら条件を()んだ。


「ちょっ、アンタ正気!?」


 クレア隊長が声を上げた。


「正気ですよ。コイツの目は本気です。本気でロウ=メディウムが魔王を倒すと思ってる。これ程の実力者が断言するんだ。試しに信じてやってもいいでしょう?」


 そう言うと、クレア隊長に向いていたルクス隊長の視線が再びこちらを向く。


「だが、ロウ=メディウムが第一部隊に相応しくないと判断したらいつでも下ろす。それでいいな?」


「はい。無理な条件を()んでいただきありがとうございます」


 ルクス隊長の善意に感謝して俺は頭を下げた。

 ルクス隊長が引っ込んだのと入れ代わりにレヴァン隊長が再び前に出る。


「では、明日からリアン=リワードとロウ=メディウムの二名を特例で第一部隊へと配属する。異論がある者はいるか?」


 何か言いたげにしている人は何人かいたけれど、誰からも異論は出てこなかった。


「これにて第七十六回対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)入隊試験を終了とする。解散」


 最後にルクス隊長から明日、ロウと共に本部ではなく、第一部隊の隊舎に来るように言われ、対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)の代表者たちは帰っていった。


「リアン=リワード」


 俺も帰ろうとしたその時、背後から名前を呼ばれて呼び止められた。

 振り向くと、そこには代表者たちの横並びの列の中心にいた五十代くらいの一人の男――


対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)・第0部隊隊長、そして対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)・総隊長を務めているガルシア=ドルドムントだ」


 《対魔王十一魔導部隊(アルゴノーツ)》の頂点に立っている総隊長が直々に話しかけてきた。


「最後に私からひとつだけ聞いてもいいだろうか?」


「なんですか?」


 半身だった体を正面にして向き直る。


「……アルム=レイラーという名の男を知っているか?」


「いいえ。知りません」


「……」


「……」


 お互いの視線が交差する。

 まるで周囲の雑音が消えていくかのような感覚を覚え、 物音一つ聞こえない静寂(せいじゃく)が流れているように感じた。


「……そうか」


 総隊長はほかには何も言わず、ただそれだけを言い残して去っていった。

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