立ち去れ
辺りはしんと静まり返っていた。
ガサリと横の茂みが揺れるよりも早くに雨月はそちらに体を向け、その歩みを止めていた。
枯れた草の茂みがもう一度、大きく揺れると同時に妙に甲高い声が茂みの中から聞こえてきた。
『いい匂いだぁ~・・・。人間の子供の匂い』
その言葉に雪は本格的に身構え、茂みの中に姿を隠したままのその相手を注視した。
雪の視線を受けて茂みの中にいるモノはふつふつと笑ってみせた。
「・・・何用か」
茂みの中にいるモノに雨月が問いかける。
『その人間の子供が欲しいぃ~』
「ならぬ。・・・立ち去れ」
そう言った雨月の声音にはどんな感情も現れてはいなかった。
茂みの中に隠れたままのそのモノは今も不気味にふつふつと笑い続けている。
雪はその茂みに潜むモノの姿を僅かに垣間見た。
白目のない大きな淀んだ漆黒の瞳に裂けた大きな口・・・。
雪はそれだけしか認めることができなかったがその大きさは雪よりも少し小さいことは確かだった。
「立ち去れ。・・・私の気が変わらぬうちに」
雨月の言葉に茂みの中のモノはふつふつと笑うのを止め、小さな声で『応』と答えると来た道を疾風の如く駆け去った。




