11/65
小心か豪胆か。
「木々が・・・芽吹き出しているな」
「雨月様は春がお好きなんですか?」
雪の問いに雨月は何も答えなかった。
特に好きな季節があるわけではないのだ。
「・・・雨月様・・・アレは一体・・・なんでしょうか?」
雪は遠慮がちにそう言うと林の中にある一本の大きな椋木を指差した。
その椋木の太い枝に何かが不気味にぶら下がっているのが見てとれる。
「・・・アレに関わる必要はない」
雨月はそう言い終わるよりも早くに雪を抱き抱えたまま歩き出していた。
「なんでしょう? 何だかすごく・・・嫌な感じがします」
雪は独り言のようにそう言って雨月の黒い羽織を強く握りしめた。
いつもこうだと雨月は思う。
雪は害を及ぼす妖にひどく敏感でそれに気づくと必ず自分にしがみつき、離れようとしなくなる。
しかし、しがみついた自分の方が余っ程、それらの妖よりも害があると思うと雨月は苦い笑みを溢さずにはいられなかった。
雪は小心なのか豪胆なのか全くわからない子供だと雨月は常々思う。




