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『複利チートの生贄勇者〜捧げられる前に、俺は世界を利用する〜』  作者: NEA_
第一章 偽りの勇者と、聖なる罠

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第34話「鍛冶師への挑戦状」



 むせ返るような熱気の中、巨大な金床の上に置かれた二つの素材だけが、異様なほど澄んだ青緑色の光を放っていた。


 ヴォルが『アイテムボックス』から取り出した、「高純度ミスリル」と「ミスリル結晶核」である。


 筋骨隆々の初老のドワーフ鍛冶師は、その素材を見た瞬間、目の色を変えた。長年、鉄を打ってきた職人の目が、極上の獲物を見つけた獣のように鋭くなる。


「高純度ミスリルに……ミスリル結晶核だと?」


 鍛冶師は分厚く無骨な指を伸ばし、ミスリル結晶核の表面を軽く弾いた。


 キィン……。


 工房の熱い空気を切り裂くような、澄んだ金属音が響き渡る。


 素材から目を離さないまま、鍛冶師はニヤリと笑った。職人としての心に、完全に火がついた顔だった。


「この素材で作れねぇもんは、まずねぇな」


 興奮を隠しきれない鍛冶師を、ヴォルは静かに見下ろした。その目は冷静だった。


「俺の技に耐える剣が欲しい」


 鍛冶師は笑みを収め、怪訝そうに太い眉を上げた。熱を帯びていた目が、職人の冷静な目へ戻る。


「その“技”ってのが分からねぇ。どんな負荷がかかるのか、口で言われただけじゃ、あんたに完璧に合った剣は打てねぇぞ」


 鍛冶師は親指で、工房の奥にある分厚い木の扉を示した。


「裏に試し場がある。見せてみろ。あんたの今の剣を壊す技ってやつをな」


 ヴォルは平然と裏口へ向かって歩き出した。


「分かった」



 鍛冶屋の裏庭は、武器を試すための試験場になっていた。


 そこには、鉄芯入りの頑丈な試し斬り用のかかしが、いくつも並んでいる。


 ガシッ。


 鍛冶師が棚から無骨で古い鉄剣を取り、ヴォルへ渡した。


「まずはこいつでやれ。遠慮はいらねぇ」


 ヴォルは鉄剣を受け取ると、重さとバランスを確かめるように、片手で軽く二、三度振った。


 ヒュン、ヒュンッ。


 重い風切り音が鳴る。


 試し場から少し離れた場所で、ネネが腕を組んで見守っていた。王都の中心であることを気にしたのか、短く忠告する。


「抑えろ。街中だ」


 ネネの言葉に、ヴォルはわずかに口角を上げた。


「分かってる」


 ヴォルは鉄剣を正面に構えた。


 次の瞬間、ヴォルの体に光のバリアが展開され、足元の影に高密度の『闇属性』の魔力が一気に集まっていく。


 ブゥゥン……!


 空気が変わった瞬間、見守っていた鍛冶師の目が鋭く開かれる。ただの剣術でも、ただの魔法でもない。異質で強い力が溜まっていると、職人の勘で察したのだ。


 ドンッ!!


 ヴォルの足元で、圧縮された闇が弾けた。


 『疑似・反発推進アサルト・ドライブ』による爆発的な加速。


 踏み込んだ地面がすり鉢状にえぐれ、ヴォルの姿が一瞬でかかしの懐へ飛び込んだ。


「《ドライブ・ブレイカー》」


 ズガァァァンッ!!


 強烈な推進力を鉄剣に乗せ、かかしへ叩き込む横振り。


 バキィィンッ!!


 凄まじい衝撃波が裏庭を吹き抜け、鉄芯入りの分厚いかかしが粉々に砕けて吹き飛んだ。


 カラン……。


 だが、ヴォルの手にある鉄剣も、その衝撃に耐えきれなかった。刀身が根元からへし折れ、破片が地面に突き刺さる。


 土煙を腕で防ぎながら、ティカが呆れた顔で呟いた。


「……折れたね」


 鍛冶師は目を見開き、口元をひきつらせていた。


「……今の、抑えてそれか?」


 柄だけになった鉄剣を無表情で見下ろしながら、ヴォルは事実だけを告げた。


「かなり抑えた」


 鍛冶師が駆け寄る。


 地面に突き刺さった鉄剣の刀身を拾い上げ、折れ口を職人の目で鋭く見た。


「刃が負けたんじゃねぇ。剣そのものが、あんたの異常な『衝撃』を受け止めきれてねぇんだ」


 鍛冶師は、かつてない挑戦を前にしたように、ニヤリと笑った。


「なるほどな。確かにその技なら、半端な材料じゃ絶対に耐えねぇ」



 裏庭から、薄暗い工房へ戻る。


 ズォォォ……。


 炉の炎の音が、再び大きく聞こえた。


 鍛冶師は金床のミスリル素材を前に、力強く腕を組んだ。その顔には、職人としての自信がはっきりと浮かんでいた。


「分かった。任せな。最高の剣を打ってやる」


 ヴォルは冷静に、仕事の話へ移った。


「条件は?」


 鍛冶師は職人の誇りをにじませながら、不敵に笑った。


「金貨五百枚だ」


「五百!?」


 ティカが目を飛び出しそうなほど驚く。


 だが、ヴォルはまったく動じなかった。アイテムボックスの黒い渦から、ずっしりと重い皮の小袋を取り出す。


 ダンジョンで得た大量の魔石や素材を売り、すでに金貨二千枚以上を得ていたヴォルにとって、それは出し惜しみする額ではなかった。


 ドサッ。


 金床の上に置かれた袋の口から、眩い金貨がジャラッとこぼれ落ちる。


「問題ない」


 だが、鍛冶師はこぼれた金貨には目もくれなかった。ただ金床のミスリル素材だけを、熱のこもった目で見つめている。


 金目当てではない。


 職人として、自分の限界に挑もうとしている目だった。


「金を受け取る以上、半端なもんは打たねぇ。だが時間は要る」


「完成までに、どれくらいかかる」


 鍛冶師は、燃え盛る炉の炎を見つめた。炎が、その顔を赤く照らし出す。


「普通なら二週間は欲しい。だが、あんたの剣は急ぎなんだろ」


 炎を背負い、鍛冶師は限界に挑むように笑った。


「三日だ。寝ずに打つ」


 ヴォルは素材と金を残し、振り返らずに工房の出口へ向かった。


 それは、完全に任せるという意思表示だった。


「任せた」




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