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『複利チートの生贄勇者〜捧げられる前に、俺は世界を利用する〜』  作者: NEA_
第一章 偽りの勇者と、聖なる罠

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第24話「未完の飛翔」



 深い森の中。木々の隙間からわずかに光が差し込む。二つの影が駆け抜けていく。

 長時間に及ぶ逃走で、二人の体には疲労が積み重なっていた。


「ハァッ……ハァッ……!」


 ヴォルは巨木の根元に手をつき、激しく肩で息をしていた。全身は汗と泥にまみれ、顔には濃い疲労がにじんでいた。


 スッ、と数歩前を進んでいたネネが振り返った。彼女は息一つ乱しておらず、平然とした顔をしている。


「……限界か、ヴォル。少しペースを落とすか?」


 ギリッ……と額の汗を拭い、ヴォルは険しい表情で笑った。


「……すまない、少しペースを落とそう。……ネネの基礎体力には、俺のステータスじゃまだ遠く及ばないな」


(くそっ! これじゃ完全にネネのお荷物になってるな)


 悔しさと情けなさが、表情ににじんでいた。


 カラカラ……。


 ヴォルはアイテムボックス(黒い渦)から空になった水筒を取り出し、振ってみせた。


「それに、食料も水も完全に尽きた。このままじゃ追手より先に、渇きで死んじまう」


 ネネは森の先を真っ直ぐに見据えた。


「この森を抜けた先に、この一帯を治める辺境伯領の中心都市、『城塞都市ララーブラト』がある。そこなら物資の調達も容易だろう」


 フッ、と大きく息を吐き、ヴォルは鋭い眼光を取り戻した。


「城塞都市か……。追手も、王国の巨大都市の真ん中で派手な真似はしにくいだろう。行くぞ」



 再び森を歩き出しながら、ヴォルは真剣な表情でネネに問いかけた。


(俺には、デレンやセインのような規格外の連中から確実に逃げ切る『手札』がない。……機動力を底上げする必要がある)


「ネネ。前に言ってたあの『高速移動術』の再現の件だが……あれは『聖』と『闇』じゃなくて、『光』と『闇』で間違いないんだな?」


 ネネは淡々と頷く。


「ああ。相反する属性の反発力だ。だが、あれを移動に使うには精密な制御が要る」


 ボワァッ!


 ヴォルは両手にそれぞれ「光」と「闇」の魔力を発生させた。二つの魔力が手の中で危険に揺らめく。


「俺に複雑な術式の構築はまだできない。だから、計算じゃなく『力技』で代用する」


 ヴォルは両手の魔力を近づけ、自身の理論を語り始めた。


「体に『光属性の強固なバリア』を纏い、足元や背中に『闇属性の爆発』を直接ぶつける。光のバリアでダメージを相殺しつつ、弾き飛ばされる『反発力』だけを推進力に変えるんだ」


 無表情ながら、ネネは少し呆れたような視線を送った。


「……理屈は通っているが、制御を誤れば自爆するぞ」


 カァァァァッ!! ギュルルルルッ!!


 ヴォルの全身に眩い光のバリア(ライトシールド)が展開され、足元にどす黒い闇の魔力が収束していく。


「やってみないと始まらない。少し離れててくれ」


 ドッゴォォォォンッ!!!


 鋭い爆発音。しかし、推力のベクトルが完全にブレてしまい、ヴォルは斜め上方の巨木に向かって凄まじい勢いで叩きつけられた。


「ぐあッ……!?」


 ズガァァァァンッ!!


 木をへし折り、地面をゴロゴロと転がって止まるヴォル。頭から血を流し重傷だ。

 ドサッ……と倒れ伏す。

 痛みに顔を歪めながらも、ヴォルはすぐさま自らの体に手をかざし、温かい光で包み込んだ。


「『ヒール』……ッ!」


 そこからは、狂気じみた泥臭い修練の連続だった。

 ただし、足を止めている余裕はない。

 ヴォルは森を進みながら、短い距離で何度も魔力を爆ぜさせた。数歩だけ飛ぶ。木にぶつかる寸前で無理やり止まろうとする。角度を変え、出力を絞り、また失敗する。


 ある時は、跳ぶ方向すら定まらなかった。

 またある時は、推進力が強すぎて、光のバリアごと体がきしんだ。

 そのたびに骨が軋み、血が滲み、肺の奥から熱い息が漏れる。それでもヴォルは、倒れたままでは終わらなかった。


 頭の傷を治癒し、立ち上がるヴォル。

 再び爆発。今度は地面を抉りながら不規則に飛んでいき、木々に激突して転がる。

 口の中が切れ、血を吐きながら『ヒール』をかけ、即座に魔力を練り直す。その表情には、凄絶な執念が宿っていた。


 失敗と治癒を繰り返すその姿を、ネネは無言で見つめていた。



 夕刻。


 森の木々がまばらになり、夕陽が差し込み始めた頃。


 ハァッ……ハァッ……。


 木に寄りかかり、ひどく荒い息を吐くヴォル。全身土まみれで、肉体的な限界が近い。


(ヒールで傷は塞がる。だが、体力と精神的な疲労は残るな)


 ゆっくりと体を起こしたヴォルの全身には、極めて高密度で安定した「光の膜」が纏われていた。瞳には確かな手応えが宿り、魔力の流れが先ほどまでとは比べものにならないほど安定していた。


 ブゥゥゥン……。


「……推力の角度と、相殺のタイミング。なんとなく掴んだ」


 数十メートル先にある、森の開けた空間を見据える。


「ネネ、見てろ」


 ドンッ!!


 鋭い爆発音と共に、ヴォルは一直線に空間を切り裂くようにカッ飛んでいった。光と闇が混ざり合った一筋の閃光が、残像すら残さず前方へ消え去った。


 ズドドドドッ!!!


 目標地点の寸前。進行方向の空中に闇の魔力を爆発させ、強引に急ブレーキをかける。


「『疑似・反発推進アサルト・ドライブ』……っと!」


 ズザザザザッ!


 地面を両足で深く削りながら停止するヴォル。ハァ……ハァ……と息は上がっているが、その目は鋭く、確かな成功の余韻があった。


 ネネの目に、賞賛の色が浮かんだ。


「……これほどの短時間で、形にしてみせるとは……さすがだな」


 額の汗を拭い、ヴォルはニヤリと笑う。


「今は真っ直ぐにしか飛べないが……いずれ、空中で自在に方向転換できるように扱ってやるさ。……ネネ、付き合わせて悪かったな。行こう、街は目の前だ」



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