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『複利チートの生贄勇者〜捧げられる前に、俺は世界を利用する〜』  作者: NEA_
第一章 偽りの勇者と、聖なる罠

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第15話「虚空の膂力と、黒い光」



 無傷のヴォルを見て、デレンはチッと舌打ちをした。


「……チッ。やっぱ勇者を仕留めるには、こんな一撃じゃダメか」


 ヴォルは黒いアイテムボックスから鋼の剣を静かに抜いた。そして、冷たい目でデレンたちを見る。


「教会……ではないな。何者だ」


「お前を殺し、この糞みたいな世界を終わらせる者だ」


 ドンッ!


 デレンが巨大なツルハシを地面に突き立てる。足元の石畳が、クモの巣のようにひび割れた。


 その時、デレンの後ろにいた数人の構成員たちが、一斉に懐から小瓶を取り出した。赤黒い液体の入った小瓶。魔物の血を濃縮した、禁断の薬だった。


 構成員たちは、その液体を一気に喉へ流し込む。


 ゴキャァッ!!


 構成員たちの体が、異常に膨れ上がった。服が破れ、獣の毛皮や爬虫類の鱗が体から盛り上がっていく。彼らは瞬く間に、人間離れした人型の「キメラ」へと変わっていった。


「ガアアアアアッ!!!」


 周囲の状況を見ていたネネが、鋭い声で叫んだ。


「ヴォル! ここで戦うな! これだけの騒ぎだ、ギルドや自警団が出てくる!」


 周囲の家々に、次々と明かりが灯り始めていた。それを見て、ヴォルは周囲へ一度視線を走らせた。


 ネネも、明かりが灯り始めた周囲の家々へ目を向ける。


(これ以上ここで戦えば、人が集まる。教会にまで気づかれれば厄介だ)


 ヴォルも気が付いたらしい。周囲へ一度視線を走らせると、デレンたちへ挑発するような笑みを向けた。


「俺の首が欲しいなら……周りに邪魔者のいない場所まで来い」


 次の瞬間、ヴォルは凄まじい脚力で跳躍した。ネネもそれに続く。二人は街の外壁の方へ向かって、夜の屋根の上を高速で駆け抜けていった。


「追え」


 虚ろな目で獲物の背中を睨みながら、デレンが追跡を命じた。



 街の外壁の外側。


 岩が転がる無人の荒野に、ヴォルとネネが着地した。だが、息をつく暇もない。背後から空気を引き裂きながら、巨大なツルハシが振り下ろされた。


「ここで終わりだ!!」


 ズドォォォォンッ!!


 デレンがツルハシを斜め上から振り下ろす。ヴォルは剣に魔力を込めて防いだ。しかし、衝撃があまりにも重い。体が後方へ数十メートルも弾き飛ばされ、荒野の地面が大きくえぐれた。


「くっ……!」


 ヴォルは靴底で地面を削りながら、なんとか踏みとどまる。だが、剣を受けた腕がジンジンと痺れていた。


 ネネは迫ってくるキメラを警戒しながら、ヴォルの様子を視界の端で捉えた。


(正面から受けたか。ヴォルは強い。だが、戦い慣れてはいない。手を貸すか? いや、経験を積むほうが今は大事か)


 ヴォルは剣を握り直し、デレンをじっと見た。


 その視線が、ほんの一瞬だけ鋭くなる。


 ネネはその変化に気づき、わずかに目を細めた。ヴォルが何を見ているのかまでは分からない。


 次の瞬間、ヴォルは剣の刃に氷の魔力をまとわせた。


 デレンの追撃が振り下ろされる。


 今度のヴォルは真正面から受けなかった。剣を斜めに当て、巨大なツルハシの軌道を横へ逸らす。


 その動きを見たネネは、静かにヴォルの戦い方を見定める。


 ヴォルは剣の刃に「氷」の魔力をまとわせた。カウンターの準備だ。


 デレンの追撃が、再び振り下ろされる。ヴォルは氷の魔力をまとわせた剣で、ツルハシの軌道を受け流した。


 デレンの巨体が、わずかに体勢を崩す。その隙に、ヴォルは空いた左手でデレンの顔面を殴りつけた。


 デレンはわずかに目を見開いた。殴られた場所が少し赤くなっただけで、まったく効いていないように見える。それでも、デレンはヴォルの技量を認めるように呟いた。


「……ほう。流石勇者だな」


 一方、ネネは襲いかかってくる複数のキメラと戦っていた。影の移動シャドウステップを使い、流れるような動きでキメラの首を切り落としていく。


 血しぶきが舞う。


 切り裂かれたキメラから次の獲物へ向かって、ネネは静かに影へ沈んだ。次の瞬間、影から飛び出したネネは、別のキメラの懐へ入り込む。短剣を、顎の下から脳天へ一気に突き刺した。


 さらに、次の一体の頭上を軽やかに宙返りしながら飛び越える。空中ですれ違いざまに、その首を一瞬で刎ね飛ばした。まるで舞うように、死をばらまく戦い方だった。


 ネネは着地すると同時に、ヴォルの方へ一度だけ視線を送った。


(まだ問題ない。あの男の力には押されているけど、ヴォルの動きは最初より良くなっている。あの男と戦っている間にも、成長している)


 短剣についた血を無造作に払う。そして、冷たい視線を周囲へ向けた。


「……これで残り三分の一か。図体ばかりで連携がなっていないな」



 サルファンの外壁から、はるか遠く離れた上空。


 宿屋の爆発で上がった煙を遠目に確認し、夜空を弾丸のように飛んでくる影があった。邪教の幹部、セインだ。


 黒い長髪に髭を蓄えた四十代の男。その表情からは、感情がまったく読み取れない。


「……始まったか」


 セインの背後に、神聖な「光」と黒い「闇」の魔法陣が、一直線に並んで展開される。


 光と闇。


 相反する魔力の【反発力】を利用した、セイン独自の推進・加速術式だった。彼はその反発エネルギーを連続で爆発させる。常識外れの飛行速度で、荒野へ向かって無言のまま急加速した。


 一筋の流星のような光の軌跡が、夜空を貫き、戦場へ迫っていく。


 地上でキメラを相手にしていたネネが、上空からの異常な気配に気づいた。ハッとして、頭上を見上げる。


 ネネのはるか上空。そこに、空を覆うほど巨大な「黒と白の光」の魔法陣が展開されていた。


 ズバァァァァァッ!!!


 魔法陣から、極太の光のダーク・レイが放たれる。それはネネを正確に狙い、一直線に降り注いだ。


「ネネッ!!」


 デレンと交戦していたヴォルが、異変に気づいて叫ぶ。


 ネネは間一髪で後ろへ跳び、ギリギリで直撃を避けた。黒い光の柱が、目の前の地面をえぐり取る。荒野の地面が、深さ数メートルにわたって消し飛んだ。


 爆風に吹き飛ばされながらも、ネネは受け身を取って膝をつく。


 えぐり取られた地面を見て、ネネはすぐに先ほどの魔力の性質を探る。


(教会の聖魔法……!? いや違う、性質が反転している?)


 さらに上空から、セインが急降下してくる。直撃すれば即死しかねない速度だった。足元で光と闇の反発を連続爆発させ、自分自身を大きな砲弾のように撃ち出している。


 ズドォォォンッ!!


 凄まじい衝撃と共に、セインが荒野に着地した。地面がクレーターのようにへこみ、砂や小石が天高く舞い上がる。隕石が落ちたかのような、派手で暴力的な着地だった。


 もうもうと上がる土煙の中から、セインが立ち上がる。あれほどの衝撃にもかかわらず、体勢はまったく崩れていない。


 ネネは短剣を構えたまま、その姿をじっと見据えた。


(あれだけの速度で突っ込んで、まったく体勢を崩していない。……あの大男より厄介そうだな)


「……おせェぞ、セイン」


 ツルハシを振るう手を止め、デレンが声をかける。


「……距離があった」


 セインは無表情のまま、短く答えた。


 ネネは短剣を顔の前に構え直し、鋭く睨む。頬には、冷や汗が一筋流れていた。本能で、相手の異常な強さを察しているのだ。


 セインは感情の抜け落ちた暗い瞳で、ネネを見下ろした。


「……魔族か。邪魔だ」


 ゴゴゴゴゴッ……!!


 セインの背後に、無数の「白と黒」の複合魔法陣が一瞬で展開された。夜空を覆い尽くすほどの数。空の色が反転したかのような、圧倒的な光景だった。


 冷たい表情のセインのシルエットが、無慈悲な処刑の始まりを告げていた。



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