第5話<王の蛮行>
レージュの能力によって、城の大広間に戻ったクラムをミリアが盛大に出迎えた。
「クラムさまああ! さびしかったああ~!」
「おぶ!」
頭をぎゅっとされて無理やりおっぱいにうずめられてしまう。
やわらかいものが顔面いっぱいに感じられて焦ったクラムは、聖騎士を呼んだ。
「あ、アルス!! この姫様をどめろ!!」
「あはははっもう言ってもダメだね」
くだけた態度のアルスにレージュがほくそ笑む。
「オヌシも大変のよう。皆の前では聖人でいなければならぬ」
「……どういう意味かな」
「け、けんかしてないでたすけろ!」
「クラムさまあミリアを遠くに連れて行ってえええっ! 二人きりでくらしましょ! アルスったらずっとクラムの悪口ばっかりで!」
「わ、わるぐちい?」
——べつに今にはじまったばかりじゃねえだろ。
アルスの視線を感じて息を飲む。
——なんだ?
金髪美青年の身体がもやに包まれていく。こんな風に人が見えるとき、クラムの過去視が発動するのだが、アルスは転生者ではない。
もうなんども顔をあわせているのに、こんな光景は初めでだ。
首をかしげてじっくりとアルスをながめやる。やがてアルスから視線を逸らすとおもむろに話し出す。
「陛下が、今後の傭兵たちの処遇についておっしゃっていた」
「王が?」
「見るといい」
アルスに連れていかれて向かったのは裏門からつづく庭だった。
そこには屍の山が築かれている。すでに異臭が立ち込めており、衛兵が野次馬の兵士たちをけん制していた。
その屍は紛れもなくさきほどまで戦場で戦っていた傭兵たちだ。
「な」
クラムのことなど無視して、衛兵たちは遺体をつきつぎに谷底に突き落とす。
この庭のすぐ傍は谷になっているのだ。
衛兵は足で蹴ったり、雑に持ち上げては蛮行を続ける。
クラムはふつふつと湧き上がる感情に拳を握りしめて怒鳴った。
「貴様ら!! どういうつもりだ!!」
「すべてはお前の態度の悪さが招いた事だ」
野太い声は背後から聞こえた。
王がゆっくりとクラムに歩み寄ってくる。
その口元は歪み、瞳は濁りきっている。
クラムは一瞬、背筋がぞわりとして唇をかんだ。
視線を巡らせれば、いつの間にか王の隣にアルスが並んでいた。
ミリアとレージュはクラムの両隣に並んでいた。
——ん? またあいつの。
王の隣に立つアルスの肉体が淡く光っているように見える。
何かが視えるかもしれない。
クラムは王に視線を戻すと、目に力を込めた。
「王たるワシの前にひざまずいて忠誠を誓え! さもなくばこの国の転生者をすべて処刑する!」
「はっ!?」
「わが娘の力であるはずの女神の力を奪いおって!! さきほどの騎士との小競り合いで見せた妙な力! あれはなんだ!? 女神の加護の!! 聖女が行使するはずの力だろう!! この魔物め!! お前は魔物だ!!」
指をさしてクラムをののしり、血走った王の顔は醜悪に歪んでいた。
「陛下、ここは私が」
「おお! アルスよ! 《《お前にはもうこの国を預けたも当然だ》》! さあ! あの躾のなってない野良犬を斬り捨てい!!」
「……?」
——なんだ?
何かがおかしい。
違和感を思案する時間などない。聖騎士が華麗に剣を振りかざしてクラムに襲い掛かってきた。




