第2話<疑惑の存在>
「やあクラム」
「あ、ああ。アルス」
「アルスったらまた勝手にお城に入ったの」
ミリアの声音は低い。口元をつりあがて肩をすくませると、そっぽを向く。
クラムは内心で苦言を呈する。
――自分勝手な理由で振った相手に追い打ちをかけるなって。
しかも、数少ない聖騎士である。
聖騎士は世界の創造主たる女神の恩恵を受けていて、王族に匹敵する地位を持つ。
それ故に、王女たるミリアとの婚姻の権利があった。
――俺がいなけりゃ、アルスは時期国王だったのにな。
ふとアルスと視線が交わり、微笑まれた。
その時、クラムの背中がぞわっとする。
好青年の微笑む姿にこの感覚は不思議だった。
アルスは軽装であるが、腰には剣をさげており、様子からして王に用事があるらしい。
——その時、轟音と怒声が城内に響いた。
「敵襲!!」
「チッまたかよ!」
クラムはいつも通りに使い捨ての傭兵として戦場に赴く。
天から無数の槍が降り注ぐ。凶器の雨の中を、クラムは大地を転がりながら避けていく。
怒声が響き渡るが、どいつも目の前の敵に夢中で撤退命令など聞いていない。
クラムは傍で這いつくばる仲間の傭兵の襟首を引っ付かむ。
「馬鹿野郎!! もう立つな!!」
「えっ!?」
仲間はあどけなさが残る顔をクラムに向けると、口を大きく開いて動かなくなった。
最早敵味方も判別できぬ状況で、ようやくまともに認識した様子である。
クラムは彼との数日前の会話をふと思い出す。
『僕たち転生者は加護を受けられないから、死んだら』
「ライナス!」
クラムの視界は暗転した。
――ああ、またいつものだ。
夢の中で“日本人の中年男”だったクラムは、工事現場でわめく管理職の女が鉄骨に押し潰されかけたのを助けて絶命した。
自分が転生者であると知ったのは、この世界での成人年齢である16になって、王都に呼ばれた日である。使い捨ての傭兵として。
「ぶは!」
頭から冷水を浴びせられたクラムは、王を睨み付けた。扉の奥からミリアが心配して叫ぶ声が聞こえてくる。外ではまだ兵士や傭兵が、魔物と戦っているというのに。
中心となる声と斬撃の音は、アルスであろう。
さきほどの戦闘中に意識を失ったクラムは、ミリアの転移魔法に助けられたのだ。
クラムは王の険しい目をまっすぐに見つめ返す。
王は顔を歪ませると、文句を吐き捨てた。
「こうも転生者という奴は強情で、下劣なのか! いい加減、お前の力の秘密を明かせ!」
「だから、そんなのないって」
「ミリアを助けた時、確かに女神の加護の光を見たぞ! 何故、転生者のお前があの光を纏えるのだ!?」
「わかりませんって! なんども言ってるでしょうが!」
こうしたやり取りはもう幾度となく行われた。その度にクラムは、この頭の悪い王に直接的な責めを受けている。
ふいにドアが強く叩かれて、衛兵の呼ぶ声が響く。
「陛下! 魔術師レージュ様がお見えです!」
「なに!?」
王のしかめっ面には無理もない。クラムは口端が上がるのを我慢できず、王に睨み付けられて肩を竦めた。
「通せ!」
「はっ」
衛兵の緊張した声と共に扉が軋んで開かれた。風が襲いかかり、クラムはあやうく床に転がりそうになる。
「な〜んじゃ! また尋問されとるのかクラム!」
「レージュ」
銀髪縦巻きの美少女は似つかわしくない口調でコロコロ嗤う。目元は黒い化粧をしており、魔女を彷彿とさせた。




