第1話<蘇る記憶>
大国ギリーシュ。押し寄せる魔物の群れに姫が襲われていた。
「死ねええ!!」
「いやあああ!!」
「ミリア姫!!」
クラムは咄嗟に小柄な姫を魔物の牙から守る。しかしクラムはすでにぼろぼろで、全身傷まみれである。
――もうだめだ!
目と口をきつく閉じたとき、確かに背中に斬撃の感触を受けた。
だが、クラムは生きていた。瞬間、脳内にある記憶が蘇った。
この時と同じく、女性をかばって鉄骨を受けて、死んだ記憶を。
――ああ、思い出した。俺は、日本人で鉄骨につぶされて30で死んだ。
暑い日。いつものように取引先の高圧的な女が工事現場に乗り込んできた。
――俺は短い休憩時間に水分をとっていただけだ。
それなのに、そいつは長い髪を振り乱しながらさっさと仕事に戻れ、間に合わないと怒鳴りつけた。仲間たちはため息をついたり、顔をそむけて知らぬふりをした。
――それでも、女は引き下がらず、俺につめよった。
その時、誰かが叫んだ。上を向いた時には、女にすでに鉄骨が迫り、気付けば突き飛ばしていた。最後に見たのは、女の驚く顔と、運悪く巻き込まれたらしい蛇のつぶれた屍骸だった。
――俺は、転生者、日本人で30で死んだ。
その時、まばゆい光が体を包み込み、視界が銀に輝いた。
絶叫する魔物たちの声に鼓膜がやぶれそうだった。
その日より、クラムは国の英雄となった。
国の宝であるミリア姫を助けた勇者として。
「クラムさまあ~」
「げ」
クラムは腕に絡みつくミリア姫にしかめっつらをする。数多の屈強な男たちの視線を感じつつ、盛大なためいきをついた。
ミリア姫は金髪碧眼美少女である。まるで女神の生まれ変わりといわれるほどの美貌の持ち主であるが、どうも思い込みがはげしい。何せ、婚約者である勇者を振って、クラムを女神の導きだとして夫にすると決めたのだ。
クラムはこの世界について思考を巡らせる。
すべては世界の繁栄、女神の為に。
世界の信条である。特にクラムが属するこの大国スウェンは、異世界転生者排他主義だ。
――ま、この世界そのものが、異世界転生者を奴隷扱いするのが常識なんだよな。
ふいに腕に絡みつく柔らかな肉の感触にびくりとする。
「クラムさまあ~今夜こそは~」
「あ、おい!」
ぎゅむむうううううううう!!
ミリアがクラムの腕にその甘そうな果実をつぶれんばかりにおしつけていた。
婚約者の勇者を振ってクラムにぞっこんである。
その勇者もまた厄介な存在だ。
「ミリア、クラムが困っているじゃないか」
「アルス!」
振り向くと、庭園の入り口に銀髪の美青年が佇んでいた。
勇者といわれる聖騎士である。
「うげ」
クラムはつい露骨に唸ってしまった。




