第五十話 首都レガンへ
「……。」
作戦結構まであと少し、レガンに向かって、検問を超えて大統領が過ごしている議事堂近くの大統領の住まいに向かわなければならない、その為に、情報屋が買収したという検問係の元に向かって、という道中の機関車の仲、私はこれまでの事を思い出す。
暗殺者として活動を始めてから四年間、長いようで短かった、第一の目的に対する執着、それを捨てずにいた私からしたら、このチャンスは二度と巡ってこないとも言える、最良で最後のチャンスだ、と感じていた。
Mがちらっと言っていた話では、ベイル側でも何か動きがあるらしい、と言うのは、師匠が関連して、という話だった、という事は、ベイルの大統領と、アルマノの大統領、その両者を暗殺する、と考えるのが筋だろう、それを私と師匠が担当してやっている、というよりは、師匠は私達以外の暗殺者を消して回っていた、戦時中は数十人はいたという暗殺者達も、残っているのは私と師匠だけ、他の暗殺者は、師匠が殺したり、軍に粛清されたり、それぞれに末路を辿っている、という話だ。
遺された私達、と言っても、師匠からしたら意図的に遺した師匠と私、が軍幹部を超えて、施政者である大統領を暗殺する為にそれぞれ動いている、と言うのは、ある意味必然と言えるのかもしれない、他国からしたら、冷戦中の二か国の施政者が暗殺されて、首を挿げ替える事で自体の終息を図りたい、と考えるのも不思議ではない、三世代にわたって何もしなくても生きていける様な料金のベン、を払える存在と言うのも、ある意味限られてくる、Mは依頼者の事をばらす様な真似はしないけれど、想像はつく、それ位には、私は勉学に打ち込んでいた過去がある。
「そこの、見ない顔だな。」
「貿易商のコーストよ、レガンへは貿易の為に向かうわ。」
「……。そうか、身分証明書を。」
「はい、どうぞ。」
情報屋に買収された検問係、その特徴に一致した人物に声を掛けられて、私はこの時の為に用意していた偽造身分証を提示する、コースト、という名前で通しているのだから、それはわかりやすいだろう、そして、検問係は私の機関車の切符を切って、私はまた、独り機関車に揺られる。
「……。」
ここまで来るのに、四年かかった、修行を始めてからという話であれば、十年かかった。
私は気が付けば十九歳、そろそろ世間的には結婚をしてもおかしくはない年齢だろう。
私は結婚をする気は一切ない、したとしてもそれは偽装結婚だろう、純粋な気持ちでの婚姻関係、など築ける立場でもなければ、そんな性格でもない、それ位の事はわかっているし、もしも結婚をするのだとしたら、それはゴランとするべき事だったのであって、他の誰かとするべき事ではなかったのだろう、他にするとしたら、シードル位のものだ。
「……。」
そう言えば、私はシードルの本名を知らない、私は彼に本名を伝えたが、あの子から名前を聴く機会はなかった、興味が無かったと言えばそこまで、言ってはいけないときつく命じられていたからと言えばそこまで、なのだけれど、シードルの本名を知らずに、私は彼と一か月の時を過ごして、そして決別をした。
決別、だなんていって、私が殺して終わらせた関係値なのに、もっとあの子の事を知りたかっただとか、もっと仲良くなりたかっただとか、そう言った感情は湧いてこなかった、そう言った感情は、もう捨ててしまったのだから、彼が何を言っていたとして、彼がどう思っていたとして、彼の言葉を借りるのであれば、それは星の定めなのだろう。
星を見るのが好きだった、それは今でも変わらない、私の中で、星を眺めるという事柄は、何時だって心を落ち着かせてくれる、大切な事柄だった、ただ、その意味合いの変遷、ゴランとアルビアという、幼少の友と見ていた頃の星、前線基地ビーネルが爆撃にあって、それから基地に渡ってから、基地の部屋の窓から眺めていた星、師匠に引き取られてから、あの四人とは共には見なかった、独りで眺めていた星、シードルと共に眺めた、あの星々、そして現在、また一人きりで眺めている星々、同じ星々を見ていて、いつだって同じ星を見ていたはずなのに、こんなにも意味合いが変わってくることになるとは、正直な話わからなかった。
シードルの言葉を借りるのであれば、私達は星の標によって出会い、そして星の定めによって殺し合った、という事になるだろうか、ならばゴランがあの場で死んだのは、両親が爆撃に巻き込まれたのは。
否、それは決して違う、否だ。
あの日、私が私の定めを知ったあの日、運命という線が幾重にも伸びていて、途切れていて、そして、ツァギールを弄っていた神と邂逅したその日、あの日に死んだ者達は、きっとあの神によって運命を凌辱された結果、死んでいったのだろう。
私が運命を弄られたのか、それとも私には手出しが出来ない「理由」が何かあったのか、それに関しては考察以上の事を出来ない、誰も知らない神の事、の考察など、私個人で完結しなければ、気狂いだと思われてお終いだ。
だから、私が神と称しているあの存在、全貌すら知らないその存在を打ち倒す、復讐を遂げる、という話になった時、誰かを頼る事は出来ない、誰かを頼って、誰かに依頼をして情報を得て、という事は出来ないだろう。
自力救済、と言われる類の事柄、とは少し違ってくるだろうか、もしかしたら、他国にはその神の伝承か何かが遺されているかもしれない、それを探して回って、「神の所在」を探し当てなければならない。
哲学じみている、神が存在するのかどうか、ならば神はどこに存在しているのか、そんな事を議論するのは、哲学者と言われる類の人間だけだろう。
「……。」
吹雪はやむ事なく降り続けている、この調子であれば、レガンに入ってすぐに、星の力による存在の不証明を発動して、存在を消して行動すれば、問題はないだろう。
官邸には監視カメラの類も設置されていない、と言うのがMがもたらした情報だった、監視網は厳しいが、監視カメラの類は設置されていない、つまり、監視網さえ突破できれば、誰かの目に映る事もなく、そしてそれが叶うのであれば、私がやったという証拠は残らない。
師匠がベイルの大統領に手を掛けて、こちらの監視網がきつくなるのが先か、それともその逆か、はたまたタイミングよく両者を暗殺できるのか。
先を越されてしまったら、私にはタイミングが訪れないだろう、羽ばたく彗星を使って遠距離から、という手も考えたには考えたが、それは私にしか使えない技、私の存在が証明されてしまったら、それは私が追っ手から逃げ続ける生活をしなければ、粛清されるという話になってくる、そうなった場合、それに連なる人間として、師匠は私を許さないだろう、私の存在を消しにかかって、黙する事を選ぶだろう。
「……。」
生きて神に復讐する為にも、私は生き抜かなければならない、それだけは明白だ。
他に何をすれば神に出会えて、という眉唾な話は置いておいて、ひとまずそれだけは事実、それだけは現実として、前提条件なのだから。




